感動の喝采を浴びた王者たちが手繰り寄せた、未来への滑走路-2025JBC戦評
2025年 11月 09日
競馬場の全面リニューアルを経て、15年ぶりに船橋競馬場に戻って来たJBC(ジャパン・ブリーディングファームズ・カップ)。当日は事前に入場券を購入する必要があったが、販売された1万3千枚の9割以上となる1万1800人余りが入場し、熱気に包まれた中で国内最高峰の戦いが繰り広げられた。
前日にフォーエバーヤングの米ブリーダーズカップクラシック優勝という偉業が伝えられたこともあり、ダート競馬に対する注目度が、否が応にも高まる中で行われた戦い。ただ15年ぶりという舞台装置がそうさせたのか、どの競走も極めて難解な印象を見る者に与えただろう。その結果、3競走全てで5番人気以下の馬が連対するという、波乱含みの結果になった。ただそれこそ、国内ダート競馬が質量ともに高まったことの証左ともいえ、フォーエバーヤングの偉業もその延長線上に存在している。そんな今だからこそ、JBCを通じてダート競馬の素晴らしさが伝わっていたらと私は思っている。そしてこの日、感動の喝采を浴びた王者たちの戦いを中心に、統一GⅠ3レースを駆け足に振り返っていきたい。
<おことわり>
JBC2歳優駿は全頭解説を行った記事のコメント欄を用いて、既に掲載しております。
逃げ馬の宿命が、連覇を後押ししたアンモシエラの歓喜-JBCレディスクラシック
地方勢のエース格と期待されたフェブランシェが米ブリーダーズカップフィリー&メアスプリント参戦で海を渡った(結果、出走取消)ものの、現在考えうるオールスターキャストといえるメンバーが集う、最高峰にふさわしい戦い。その中で喝采を浴びたのは、昨年の王者アンモシエラ。7番人気という低評価をあざ笑うかのような逃げ切り勝ちを収め、レース史上3頭目となる連覇を果たした。
レースは全馬ゲートに収まってからオーサムリザルトが暴れ、開くまで時間がかかるも、そのオーサムリザルトが1番良いスタートを切る。しかしハナを主張しなかったことで、ひと息のスタートも気合をつけられたアンモシエラに譲り、自身は2番手でマークする形になった。これで序列が落ち着くと、アンモシエラはやや速目のイーブンペースを刻んでついていけない馬を徐々に振るい落とすと、オーサムリザルトまで勝負所から手応えが怪しくなってしまった。直線に向いてテンカジョウが追い込んできたものの、アンモシエラは後続に影を踏ませることなく、ゴール板を駆け抜けたのである。
連覇を果たしたアンモシエラがこの1年間勝利を手にできていなかったのは、逃げられずに力を出せない、逃げ馬の宿命ともいえる競馬が多かったため。またマリーンCを逃げ切ったプラウドフレールという同型がいたことで、今回も逃げることは厳しいという雰囲気があったことが、7番人気という低評価につながったのだろう。しかし自身とハナ争いをしていた馬はいなくなり、プラウドフレールは生粋の逃げ馬ではない。それは両レースのハロンタイムに鮮明に現れていた。
マリーンカップ(1着 プラウドフレール)
12.0-11.7-13.1-12.9-12.9-12.8-12.7-12.7-12.8 →1分53秒6
JBCレディスクラシック(1着 アンモシエラ)
11.9-11.8-12.6-12.4-12.3-12.3-12.4-13.4-14.2 →1分53秒3
プラウドフレールの逃げはスローに落とし、最後まで脚を残すことを意識したもの。対してアンモシエラはペースを上げ、ついて来られない馬を振るい落とすための逃げだった。そもそもアンモシエラは同型にケンカを売って蹴落とす競馬が数多く、元々刻むペースは速目。徹底先行型でないとこのハナを叩くことは容易ではなく、結局単騎で速いペースを刻むアンモシエラの自滅を、ライバルは待つしか手段が残されていなかった。だとすれば連覇を成し遂げたのは、必然だったと評しても良いのかもしれない。
こうなると来年、レース史上初の3連覇にも期待がかかるが、来年の舞台は金沢1500m。スピードの絶対値で勝負する逃げ馬ではないので、この馬向きの舞台かといわれると難しいところ。だとすればチャンピオンディスタンスにこだわり、時には牡馬相手に戦う姿も見せてほしいと思う。その中で牝馬に囲まれた中では手にできない勲章を、手にすることだって可能ではないかと考えている。
2着には1頭だけ後方から追い込んだテンカジョウが入った。前走程ではなかったものの、今回もスタートは決まらず。その分だけ位置取りが後ろになったことで、向正面半ばから追い上げる形になってしまった。最後まで脚は止まっていなかったので、流れに乗れていたらと思うところもあるが、アンモシエラが力を出せる形になると交わせないという評価が正しいかも。それは他力本願な戦いでないと、逆転できないことの裏返しでもある。
アンモシエラをマークしたオーサムリザルトは、結局3着。ゲートで暴れた影響は未知数として、好スタートを切りながら相手のペースに委ねたことは、結果論だが悪手だったか。だがそれ以上にエンプレス杯の敗戦が、想像以上に精神的なダメージがあったか、ピークアウトしていたことを象徴していたかではなかったのか。昨年この舞台を選んでいたとしたら・・・と思わずにいられない結果だった。
その他の中央勢は、3年連続2着だったグランブリッジは、好位から流れ込んだだけの4着。今まででは考えられない敗戦が今年は多く、むしろ良く立て直したという、精一杯の走りを見せた結果だった。5着だったライオットガールは3番手につけたものの、勝負所で手応えがなくなった。大幅に馬体が減ったことが良くなかった上に、力勝負で臨んだことも良くなかったかもしれない。レディスプレリュードを勝って臨んだビヨンドザヴァレーは、序盤からついていけずに9着。二匹目のドジョウはいなかったの一言で十分だろう。
地方勢は控える競馬ができるようになったマテリアルガールが、じっくり脚を溜めて最先着となる6着。ただ総じて見せ場を作れた馬がおらず、力の差を見せつけられた結果だった。その中でマリーンCを制して臨んだプラウドフレールは、スタートで外から出てきたオーサムリザルトの圧に屈するように控えると、勝負所を前にズルズル後退してシンガリ負けに終わった。厳しい流れに対応できずに終わったが、足りないものが何かを肌で感じたことは大きな収穫。これが必ず活きる時がくると信じている。
ところで昨年のこのレースで入着した中央勢4頭は、今年も全て掲示板に入った。それだけ現状のレベルが高い事を証明していたが、一方で新興勢力が台頭できなかったことも意味している。その新陳代謝を促すためにも今の競走数が適正か、議論が進んでほしいと思っている。
経験に裏打ちされた自信を胸に、ファーンヒルが快速王の称号を手に-JBCスプリント
2年前、イグナイターの手綱を取ってこのレースを制した時の笹川翼騎手は、笑顔がはじけるインタビューを受けていた。それが今回のインタビューで、自信に満ち溢れた力強い言葉を並べた姿に、私は驚きを感じながら聞き入ってしまった。未知数な舞台で争われた中で明暗を分けたものは、経験に裏打ちされた自信だったことを示す、ファーンヒルの快勝劇だった。
スタートが勝負の大きなカギを握る1000m戦。好ダッシュを決めたエンテレケイアの内から、出ムチを入れて抵抗したのがファーンヒル。この競り合いを枠順の利を活かしてファーンヒルが制したことが、後に触れるがこのレースを分ける大きなポイントだった。その後3角から捲ってきたママコチャに捲らせず、直線に入ってからも後続は差が詰めることができず、そのままに逃げ切ることに成功。地方所属馬としてレース史上5頭目の制覇を成し遂げた。
勝ったファーンヒルは、転入後の2戦が好位からの競馬。いずれも外枠を引いていて、揉まれなければ好位で十分という戦いができた。それだけに内枠を引いた今回は難しい立ち回りが求められていただろうが、その2戦で強い競馬をしていたことで手にしていた自信が、笹川翼騎手に逃げという選択肢を与えたのだろう。そして快速馬を差し置いてハナを奪い、習志野きらっとスプリントより0.3秒時計を詰めた58秒8は、今の船橋コースとしては限界レベルの好時計。この舞台で行われたことを最大限に味方につけた逃走劇だった。
ただこの先となると、選択肢が実は多くない。統一グレードでは斤量を背負うし、番組が充実している南関東でも、1200m以下のローカル重賞は年間4戦。距離を延ばすという選択肢もあるとはいえ、レース後に海外を視野に入れると関係者が語ったのは自然なことだろう。ただどのような選択をしたとしても、この称号に恥じない走りを見せ続けることを願いたいものである。
2着に入ったのは初ダートだったママコチャ。砂をかぶらない外枠を引き、先行争いにもついていけたのが一番の要因。その上で3角から強気に捲っていったのは、芝でJRAGⅠを勝ったというプライドがそうさせたのだろう。ファーンヒルまで捲ることが出来なかったので、そのままズルズル後退してもおかしくなかったが、追撃を凌いだことは評価すべき。もっともこの1戦だけでダートでも戦えると評するのは早計で、関係者は進退にも言及していたので、それを確かめる機会がないかもしれないけれど・・・。
3着だったサンライズアムールは、内ラチ沿いをピッタリ回って来ただけ。ハナ争いに加われなかった上に、直線でも差を詰めることができない走りに、この馬の限界が垣間見えた気がする。年齢的に更なるスケールアップを望むのは難しく、今回程度の走りで結果を出せる舞台を探そうとするしかなさそうだ。
昨年2着のチカッパは、直線外から伸びそうで伸び切れずに4着。未知な舞台ゆえにレースセンスの良さが活きる可能性はあったけれど、それで勝ち負けまで届かなかったという印象。5着だったクロジシジョーは最後良く追い込んできたが、前が崩れない中での1000mはさすがに短すぎた。路線変更してきたカジノフォンテンは、敢えてスタートを出さずに最後方で腹を括って6着。この路線に慣れてくれば、もうひと花があるかもしれない。
そして2番人気だったドンフランキーは、1完歩目で後れを取り、加速しようとしたところで内外から来られて行き場を失う場面が。結局持ち味のスピードを発揮できずに10着に終わり、レース後に引退・種牡馬入りすると明らかになった。600キロ前後の雄大な馬格から生まれるスピードを武器に存在感を放ったが、東京盃を勝った2年前、そのままJBCスプリントに駒を進めていたらという想いが残る。その答えが子供たちを通じて見られることを、私は願っている。
最後になるが、船橋1000mという未知なる舞台だったことを差し引いても、1200m以下の統一グレードタイトルを持つ馬が3頭しか出走しなかった。これは需要がありながらも頂点を目指す上での番組が脆弱なことを示しており、昨年から北海道スプリントCが3歳限定になったことで、それがより加速した印象もある。私は以前から船橋1000mに常設の統一グレードが欲しいと指摘してきたが、それを含めてスプリント路線の拡充が待ったなしになったと感じさせる、今年のメンバーだった。
「待ってろ、フォーエバーヤング」・・・ミッキーファイトが統一GⅠ連勝で、国内ダート古馬戦線を平定-JBCクラシック
レースが終わってから気が付いたのだが、今年になって地方主催で行われた古馬統一GⅠ優勝馬が、一堂に会していた。正に国内最高峰を争うにふさわしいメンバー構成だった訳だが、その中で単勝1倍台の支持を受けたのが、今年の帝王賞を制したミッキーファイト。それは偉業を成し遂げたフォーエバーヤングを脅かす力があると認められていたからに他ならないが、その期待に応えるかのように4角先頭から後続を突き放す圧勝劇。その姿に贈られた喝采は、打倒フォーエバーヤングの筆頭格と認めたことを意味していた。
レースは好スタートを切ったライトウォーリアが一瞬主張するが、加速がついたサントノーレがアッサリ交わして先頭に。ただそれを目掛けてシャマルをはじめとする中央勢が殺到。それもあって2ハロン目に11.3秒という、前走フリオーソレジェンドCを逃げ切った時にはなかった11秒台のラップが記録された。
その後は落ち着いた流れになったが、その輪から一歩引く形で戦っていたミッキーファイトだった。3角手前から前との差を詰め始めると、逃げ粘るサントノーレを4角で捕まえて先頭に。最後の直線では後続との差がみるみる開き、最後追い込んできたメイショウハリオも脅かすまでに至らず、帝王賞に続く2つ目の統一GⅠタイトルを手に入れたのである。
ミッキーファイトの関係者は戦前、前走帝王賞ほどの状態に及ばないのではと示唆していた。実際私自身も、その当時には及ばない印象をパドックからは受けていた。だが冷静に考えれば、帝王賞は着差こそ僅かだったが非常に中身の濃い内容。この時の2~4着馬がいなくなった組み合わせなら、100%でなくとも互角以上の力関係にあったのだろう。今回の結果は、正にそれを証明するかのような走りだったといえると思う。
そして勝ちタイムの1分52秒0は、フォーエバーヤングの日本テレビ盃より0.2秒速いもの。ペースの違いや状態面などは考慮しつつも、数字上は伍して戦えることを示した。それだけにこの対戦をどこかで見たいと思ってしまうが、その舞台はほぼ間違いないなく海外になるだろう。それを今、日本以外の競馬関係者がどれだけ期待しているのか、気になる所である。
そして今回、ミッキーファイト並みに、いやそれ以上の喝采を送りたいのが2着のメイショウハリオである。帝王賞の輸送中に発生したアクシデントから4ヶ月で競馬場に戻ってきただけでなく、結果を残した走りは多くのファンに感動を与えたに違いない。後方で脚を溜め、向正面半ばからのロングスパートで2番手まで押し上げた内容も、3着を5馬身千切っただけに上々。メンバーや展開次第で更なる統一GⅠタイトル奪取も可能と思わせる、素晴らしい1戦だった。
前走フリオーソレジェンドCを好時計で逃げ切ったサントノーレは、3着に踏ん張った。中央勢のマークが厳しかった結果、前半600mは当時より1.4秒速い35.5秒、同1000mは1.7秒速い60.6秒。これではミッキーファイトが迫ってきた時に抵抗できなかったのは仕方ないけれど、それを考えればよく粘った。この戦い方では中央勢のマークが厳しくなることが課題としても、統一GⅠ制覇を現実的に目指せることは間違いないだろう。
一方で残念だったのは5着に終わったウィルソンテソーロをはじめとする、マイルチャンピオンシップ南部杯から転戦してきた馬たち。どの馬も見どころなく終わってしまい、ここまで枕を並べて崩れてしまうと、レースレベルそのものを疑わざるを得ない。歴史的名馬が歴代優勝馬に数多く並ぶ1戦を、このように語る場面が来たことに、寂しさを禁じ得ない。
あと触れておきたいのは、4着だったキングズソード。3番手で前を追いかけたとはいえ、休み明けの前走より内容が悪くなるとは思わなかった。そして今回も左回りで結果を残せなかった現実から目を背けることもできず、今後は右回りに専念することになるかもしれない。
また唯一他地区から参戦した兵庫のアラジンバローズが、最後差を詰めて6着に喰い込んだ。これだけ戦えたことはひとつの自信になると同時に、地元にはマルカイグアスとオケマルという、全国に名を轟かす生え抜きのダービー馬が待っている。これらが一堂に会する舞台があれば、大いに盛り上がることが期待されるだろう。
ところで最後にチクリ。JBCクラシックの表彰式プレゼンターとして船橋競馬のイメージキャラクターを務めている百田夏菜子さんが出席し、関係者への花束贈呈を担ったが、序列を無視して立ち位置に近い関係者から渡す姿に閉口してしまった。どういう経緯で起こったのかはわからないけれど、日本競馬最高峰を争った表彰式で起こった事実を、無視して通り過ぎるのは違うのではないかと、私は考えている。
(詳細なレース結果は地方競馬全国協会のオフィシャルサイト等で確認してください)
