諦めなかった競馬場で輝いた、諦めなかった勝者たち-2024JBC戦評
2024年 11月 18日
JBC当日の競馬場やネットで流された映像に、中津競馬場と荒尾競馬場の廃止という、九州競馬の歴史に触れたものがあった。地方競馬にとって苦しかったあの時代、大半の競馬場で存廃議論が沸き起こり、佐賀競馬場も例外ではなかった。それでも“九州から地方競馬の灯を消してはならない”と、佐賀競馬に携わる人々が諦めずに踏ん張ったからこそ、今もその歴史を紡ぎ続けている。その想いが結実したのが、2024年11月4日に記された特別な1日だったと思っている。
初めて佐賀競馬場を舞台に行われたJBC(ジャパン・ブリーディングファームズ・カップ)は、第1レースが始まるころから大観衆が競馬場を包み込んでいた。この日訪れた1万3千人近くという人数は、目の前で行われるレースのために佐賀競馬場に集った数としては、果たしていつ以来だっただろうか。私はネットを通じての観戦だったが、国内最高峰の戦いがこの地で行われたことに対する喜びに溢れていたことは、十分に伝わって来た。
この日現場に足を運んだ方々の多くは満足して帰路についたと思うが、その人たちにもう1度この地でJBCを見たいと思わせるのは、これからの佐賀競馬にかかっている。そのためにも主催者をはじめとする関係者は、地道なところから出来ることを積み重ねてほしいものである。
そんな舞台で行われたからか、頂点に立つことを諦めずに戦ってきた馬が栄光を手にした。このブログで何度か触れた話だが、統一GⅠタイトルは出走4戦目までに手にできないと、その可能性が著しく下がる。にも拘わらず今年のJBCクラシックを勝ったウィルソンテソーロは7戦目、JBCスプリントを勝ったタガノビューティーは実に8戦目で手にした戴冠。これがダート競馬の今後にどんな影響を与えるかは定かではないが、それが1戦1戦の感動を高めたのは間違いないだろう。そんな様々な想いが交錯した統一GⅠ3レースを、駆け足に振り返っていきたい。
<おことわり>
JBC2歳優駿は後日掲載するコラムの中で、簡単に触れる予定です。
<11月26日追記>
JBC当日に計測された上がりタイム等に不具合があったことが主催者より発表され、同日修正された情報が公表されました。それに伴い、タイムに関する記述の部分を一部修正しております。
敗北を伏線にしたアンモシエラの逃げ切りと、今回も課題を乗り越えられなかったグランブリッジ-JBCレディスクラシック
今年から3歳限定のマリーンCが前哨戦として組み込まれたことで、世代間対決となった意味でも注目された、牝馬の最高峰を争う舞台。2年連続2着だったグランブリッジの悲願なるかが大きな見どころといえたが、頂点に立ったのはハナを奪った3歳馬アンモシエラ。グランブリッジはまたしても2着に敗れ、頂点の座を掴むことが出来なかった。
戦前からアンモシエラがどう戦うかがポイントと見られていたが、好スタートを切ったライオットガールを制する形でハナに。その後アイコンテーラーが2番手に上がってきたが、ここで序列が固まってスローな展開に落ち着いた。逃げたアンモシエラは2周目3コーナーから後続を突き放さんとゴーサインが出ると、4コーナーまでにセーフティーリードを築き、勝利を確定的に。最終的に2着に4馬身差をつける圧巻の走りで、栄光のゴールを駆け抜けたのである。
アンモシエラがマイペースの逃げを打てたのはやはり、これまでの戦いぶりにあったのだろう。例えば羽田盃では、雲取賞を逃げ切ったブルーサンに競り込んでハナを奪い、相手をシンガリに沈めた。そして前走マリーンCも、関東オークスを逃げ切ったアンテスビエントを競り潰して、相手をシンガリ負けに追い込んだ。特にマリーンCは自身も4着に崩れたが、この走りがライバルにケンカしたくない意識を与えたことが、大きな伏線として現れたのは間違いないだろう。
一方で今年から創設された国内ダート3歳3冠路線を歩み、そこで好走してきた底力を発揮した1戦だったのも間違いない。昨年制したアイコンテーラーもそうだが、牡馬相手に結果を残してきた馬は、牝馬同士では得られない経験値を手にするのは確か。それらを武器に初の古馬相手となった1戦を突破したと評するのが、最もふさわしい言葉だろう。この路線の中核を担うだけでなく、女王のプライドとともに牡馬相手に戦う姿も見せてほしいものだ。
一方で3年連続2着に終わったグランブリッジは、力関係がわからない馬との対戦にウイークポイントがあると昨年指摘したように、またも初対戦となった馬に屈した。生涯において2度先着を許したのは牡馬のディクテオン1頭しかおらず、1度敗れた相手にリベンジする底力はある。しかしこの課題がタイトルから遠ざけているのは確かで、今回も3-4コーナーで内を捌いて2着争いを制するのが精一杯だった。年齢的に次なる役目も求められる時期を迎えているが、もし現役を続けるなら、どういう形でアンモシエラを負かそうとするのか、楽しみにしたいと思う。
マリーンCを制して参戦したテンカジョウは、勝負所から大外を使って追い上げるも、グランブリッジにアタマ差届かず3着。1-2着は砂が深くて伸びないといわれるインを走っていたので、そのコース取りの差が明暗を分けた印象。ただ牝馬路線においても、3歳世代が質量ともに高いレベルにあると示したのは確か。まだ底を見せていないだけに、勢力図を逆転する可能性は十分あるだろう。
4着だったライオットガールは結果が出ている馬体重まで絞り、パドックの雰囲気も良かったけれど、道中3番手から動けなかった。春以降は今一歩の結果が続いていることもあり、これを抜け出すには何かを変える必要があるのかも。このままジリ貧になって終わってほしくない。
地方勢は最先着となる5着となったドライゼと、6着に終わったキャリックアリードも、後方から追い上げ切れなかった。前が残るスローな展開では仕方なかったが、2着争いから大きく離されていない。前が止まる流れになれば、タイトルに手が届くと思える走りは見せたのではないだろうか。
最後に連覇を狙ったアイコンテーラーに触れると、2番手追走も勝負所で失速してしまったのは、オーサムリザルトの逃げ切りを許したエンプレス杯と同じ。逃げ馬にレースを支配されると脆かったという結果だったかもしれない。レース後の15日に引退が発表され、結果的に短期間の輝きに終わった印象はあるが、牝馬戦線の質の高さを示す一翼を担った功績は、称えたいと思う。
小回りの舞台で決めた向正面まくり! タイトルに近くて遠かったタガノビューティーがついに頂点に-JBCスプリント
レースが終わって各馬が引き揚げる中、タガノビューティーの石橋脩騎手は着順を示す枠場に入らず、写真判定が表示されるのを待っていた。勝利を確信していたかのような表情を見せていたが、だからこそ“だろう”ではなく“勝った”の喜びとともに枠場に入りたかったのではないだろうか。ダート統一グレード17戦目でついに手にした初タイトルは、ダート短距離界の頂点に立つ、最高の形でもたらされた。
レースはスタートを決めたシャマルがハナに立ち、その外につけたのがヘリオス。そして少し離れた3番手にイグナイターがつけたが、この序列は短距離戦とは思えないほど静かに形成された。その結果として前半3ハロンの通過は36.2秒。約2ヶ月前に行われたサマーチャンピオンの同35.9秒よりも遅い、スローといえる流れで幕が開いたのである。
向正面に入ると先行勢は後続を突き放そうとするが、それを許すまいと動いたのが中団にいたタガノビューティー。向正面半ばから抜群の手応えで馬群の大外を上昇すると、4角では先行勢に並びかけていたイグナイターまで捲り切り、一気に先頭に立ったのである。
しかしこの時、イグナイターの後位で息をひそめていたチカッパが、がら空きになった内側からコーナーワークを利して追いついてきた。最後の直線はこの2頭の競り合いとなり、一旦はチカッパが前に出る場面もあったが、併せ馬になったゴール直前でもう一度タガノビューティーがハナ差前に出て、この競り合いを制したのである。
勝ったタガノビューティーは末脚が良いが故に、これまで位置取りが後ろ過ぎたり仕掛けが遅れたりといった所があったのかもしれない。ただ今回は小回りコースもあって、向正面から動いていく積極的な仕掛けを見せた。思えば初めて地方の馬場を走った一昨年のかきつばた記念が、4着ながら小回りコースに対応する走りを披露。また今回はスローな入りになり、位置取りの割に前との差がなかった。これらが噛み合ったことが、まくりを決めて勝利をもぎ取る大きな要因になったと考えている。
7歳という年齢から、この先の現役生活はそう長くないと思われるため、未来を変えるという意味では大きな勝利だった。一方で現役を続けた場合、なかなか勝利に届かないキャラクターが変わることはないとしても、短時間で大きく力を落とすことも考えにくい。まだまだこの路線で、存在感を放ってほしいものである。
惜しくも2着に敗れたチカッパは、春当時から感じていたレースセンスの巧さを、存分に発揮した1戦だったと思う。この勝ち負けはベストが1200mではないかという部分と、3歳馬と古馬との経験値の差だろう。それでもこの段階でこれだけ走れるなら、この先路線の牽引役を担う可能性も十分あると思っているが、これから同世代のライバルが続々と加わってくるはず。それらの盾になる立場として、戦うことになるのかもしれない。
3着以下は地方勢が並んだが、最先着となる3着には、アラジンバローズが追い込んできた。道中はタガノビューティーの後ろで、それが動いた際に追いかけようとしたものの、そこで一瞬置かれたことが最後まで響いた。これは短距離路線に転じて3戦目という部分もあっただろうが、路線現行後の充実ぶりを示すに十分な走り。中央時代は長期休養が多かったので、7歳とはいえまだ良くなる可能性を秘めていそうである。
連覇を目指したイグナイターは、結局4着止まり。前走後にアクシデントがあって調整に誤算があったそうで、その影響か全体的に戦い方が消極的に映った。良い時には後続が来る前に抜け出す、積極的な競馬ができる馬なので、それが見られなかったことは残念だ。なお17日になって、関係者から来年も現役を続けること明らかにされた。まだまだダート競馬界を盛り上げていってほしいものである。
5着に入ったパワーブローキングは、最後方に近い位置から直線勝負でここまで飛び込んだ。初のスプリント戦で脚を測った印象の戦い方で、これを素直に実力と評してはいけないけれど、一定の成果を得たのは間違いない。今後はまず、南関東のスプリント路線でどういう結果を出せるのかを注目したいと思う。
意外に映ったのは、7着に終わったシャマルだ。戦績を振り返れば、過去のダート統一グレード6勝は全て重~不良馬場で挙げたもの。2日前の不良馬場から良馬場に回復したことが、マイペースで逃げながら4角手前で一杯になった要因だと考えたい。だとすれば、今後も馬場状態に結果が左右される馬と意識すべきだろう。
ところで来年のJBCスプリントは、船橋競馬場の1000mで行われる。今年も条件が合わない等の理由で海を渡る馬が多かったが、来年は違った意味でどういうメンバーになるか、想像が難しい。これが現在のJBCスプリントが抱える宿命といえるが、それでもJBCというタイトルが持つ重みと輝きが変わることはない。それを忘れず、これから1年の短距離路線を見つめていきたいと思っている。
ウィルソンテソーロを悲願の統一GⅠ制覇に導いた“九州の絆”-JBCクラシック
競馬場では平静を装い、勝利インタビューも通り一遍の言葉が並ぶことがほとんどの川田将雅騎手が、あれだけ感情露わに歓喜し、冗舌にインタビューに応えた姿は、今年のJBCを象徴していたシーンだった。佐賀競馬場をルーツに持つ川田将雅騎手と、やはり九州・鹿児島出身である馬主の了徳寺健二氏(名義は了徳寺健二ホールディングス㈱)。かつて世界を制したコンビは、九州競馬初のビッグイベントでウィルソンテソーロをJBCクラシックの勝利に導き、競馬場を万雷の拍手に包み込んだ。
レースは日本TV盃で逃げ切ったウィリアムバローズが、ここも好スタートを決めてハナに。その後位にヒロイックテイルとガルボマンボの高知勢がつけ、ウィルソンテソーロなどその他の中央勢は、その後ろで機を窺う形で1周目は進んで行った。
そして2周目向正面を迎えて高知勢が苦しくなると、自然と2番手に上がって来たウィルソンテソーロがゴーサイン。3コーナーで逃げるウィリアムバローズの内から交わして先頭に立つと、あとは独り舞台。新王者の誕生を示すゴール板を過ぎると、鞍上の川田将雅騎手は左手を高々と上げ、その歓声に応えたのである。
とにかくウィルソンテソーロの強さばかりが目立った1戦だった。先頭を射程圏に入れつつ、小回りを意識した早目の仕掛けで一気に抜け出すと、後続に影を踏ませぬ走り。これまで統一GⅠ2着が3度あった勝負弱さは何だったのかと思わせる、完璧なレース運びだった。ただ前述した統一GⅠ2着時の勝ち馬は、今回不在だったことも見逃せない。この先に待ち構える統一GⅠ戦線では、それらとの再戦も予想されているだけに、真価はそこで問われることになる。
4馬身離された2着には、4角手前でウィリアムバローズを交わしたメイショウハリオが入った。2周目向正面で動いたものの、ウィルソンテソーロとの手応えの差は歴然で、追いつける雰囲気はなかった走り。ただし内を捌いた相手に対して大外を回ったため、着差ほど力の差があったともいえない。それでも1つハッキリいえるのは、海外遠征で崩れたリズムは取り戻せたということ。今回の差が逆転不可とは、思わない方がいいだろう。
3着には園田から参戦したキリンジが喰い込んだ。中央から転入後は独特なスローな展開に力を出せていなかったが、ここなら力を出せる流れになる。497キロと中央時代の馬体重に戻したことも奏功し、大外から良い脚を使って伸びてきた。相手が強くなった方が力を出せる馬で、今後もそういう舞台を求めた方がいい。その中でまだ手にしていない統一グレードのタイトルを手にするチャンスも、きっとあるはずだ。
道営から参戦して4着だったシルトプレは、最後に追い込んできた脚は見どころがあったが、さすがに道中後ろ過ぎた。積極的に統一グレードに参戦する姿勢は認めるが、いつも必要以上に後ろに構え、追い込んで届かずというレースばかりを見ている気がする。戦い方1つで今回以上の結果を手にできる底力は、あると思うのだが・・・。
今年の佐賀記念を勝って注目されたノットゥルノは、勝負所から反応がなく5着。昨年のこの舞台で逃げの手に出て以降、結果を出しているのは逃げるか、早目に抜け出す競馬ができた時。好位で構えて抜け出す力は、もうないのかもしれない。
そして逃げたウィリアムバローズは、ウィルソンテソーロに交わされてから粘れず6着。前走日本TV盃は勝負所から後続を突き放せたが、今回は突き放す前につかまってはひとたまりもない。マークされる展開で押し切る力は、まだなかったということだ。
<統一GⅠ3連戦は、偶然にも・・・>
佐賀で行われた統一GⅠ3連戦は、偶然にも3戦とも1番人気と4番人気の馬による決着となった。4番人気になって結果を残した3頭は、近況(特に前走)の内容が良くなかったとみられて評価を落とした実力馬。しかしメンバー構成や舞台が変わったことで、地力を発揮して巻き返したものだった。JBC各競走は人気馬総崩れとなるケースは少ないものの、1-2番人気で決まるケースは思っているより多くない。それを来年以降に向けて、見る側の教訓として記憶しておきたいものである。
(詳細なレース結果は地方競馬全国協会のオフィシャルサイト等で確認してください)
