人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「東京大賞典」戦評-“最悪の展開”でも差し切った、世界を制した豪脚・・・ウシュバテソーロを止める馬はいるのか

2019年以来となる、入場制限がない中で行われた東京大賞典。その2019年の入場者数は4万7千人余りだったので、今回の2万9千人近くはその6割ほどになる。ただし新型ウィルスとの戦いを経て、競馬場に来なくても参加できるビジネスモデルが定着したことを考えれば、よくここまで競馬場に人が戻って来たという感慨はある。そしてその観客が目撃したのは、世界を制したウシュバテソーロによる、信じがたい豪脚。あの場にいた人は歴史の目撃者として、あの1戦の興奮をそれぞれの言葉で語り継いでほしいと思っている。

おことわり・例年東京大賞典の戦評とともに掲載していた新シーズンを展望する記事は、今年は掲載しません。そして来年以降も行わない可能性が高いことを、この段階で申し添えます。

<砂の入れ替え、スローペース・・・完璧だったウィルソンテソーロの逃げ>

JBCの開催から豪州産の砂に変更された大井競馬場。その後の開催の傾向をずっと見ていたが、マイル以上の距離で極端な追い込みが届きにくくなっていた。行ったもの勝ちというほど極端な先行有利といえないものの、ペースが遅ければ前が止まらないし、さりとてペースが速くなれば後方にいる馬が脚をなし崩しに使ってしまう。結果的に前に行った馬に有利な馬場傾向になっていた。

そこにJBCクラシックに続き、徹底先行不在の組み合わせ。それでも抜群のスタートを切ったとはいえ、前走チャンピオンズCで追い込んで2着に入ったウィルソンテソーロが逃げる展開は、誰も予想しなかったのではないだろうか。その2番手にはドゥラエレーデがつけて、3番手にはノットゥルノ。スタートが良くなかったミックファイアは中団からとなり、ウシュバテソーロは後方から2番手という位置で1コーナーを回った。

早々に位置取りが固まったことで、逃げるウィルソンテソーロのペースはスローに。前半3ハロン36.9秒・同5ハロン63.8秒は、JBCクラシックの前半3ハロン36.0秒・同5ハロン61.5秒と比べても、遅いことがわかる。そのため1コーナーでは縦長だった馬群が3コーナーで一旦詰まったが、その後も大きな序列の変更はなく、4コーナーを迎えた。

ここで気分よく逃げていたウィルソンテソーロは、コーナーワークを利して後続との差を広げると、ゴーサインを出して2番手以下を更に突き放す。残り200mを切って2番手にいたドゥラエレーデとの差を3馬身ほどつけたところまで、非の打ち所がない完璧な逃げ。一転した戦い方を演じた原優介騎手を、名騎乗と称えなければいけないだろう。しかしそれがひっくり返ったのが、このレースが語り継ぐべき1戦だと考える理由である。

<“世界の豪脚”を証明する、ウシュバテソーロが残した数字>

ウシュバテソーロの手綱を取る川田将雅騎手は、その末脚に絶対の自信を持っていた。道中は後方で無理をさせずに進め、4コーナーを回った際もまだゴーサインはまだ出ていないように映った。ここで大外に持ち出してから満を持して追い出されたが、前も脚を残していたのでなかなか差が詰まらず。残り200mを切った時でも、まだ5~6馬身程度の差はあっただろう。

ところがそこから大逆転が始まる。力強い走りで逃げるウィルソンテソーロとの差をグングン詰めると、ゴール手前でついに捕まえる。そしてその刹那、ウシュバテソーロは半馬身抜け出して連覇を飾るゴール板を駆け抜けていた。振り返れば2~4着は、1コーナーで3番手までにいた馬がそのままの序列で入線。そんな前残りの展開で、1頭だけ異次元の末脚を発揮して、ひっくり返した1戦。しかも差し切る前に捉えられると確信するほど、川田将雅騎手の自信が揺らがなかったことに、力の差が如実に現れていた気がする。

レース後に公表された、ウシュバテソーロ上り3ハロンは37.0秒。この数字の価値を確かめるために、26日からの年末開催で行われた全68レースの全出走馬の上り3ハロンを調べてみた。すると驚くべきことに、ウシュバテソーロより速い上りをマークしたのは1頭だけ。それも26日に行われた1000m戦(B1下)におけるビルドアップ(1着)だったといえば、その末脚が異次元だったことがおわかりだろう。

もっといえば11月3日に行われたJBC3競走で、上り3ハロンを最も速く駆け抜けた馬は、スプリント2着だったリメイク37.0秒トップスプリンターでも簡単に出せない切れ味を発揮したからこそ、あの大逆転が起こすことが出来たのである。

こうやって数字で振り返って改めて感じたのは、あの日の大井競馬場でウシュバテソーロ“世界を制した豪脚”を披露してくれたということ。1年前のウシュバテソーロに対して私は“2023年の希望の星”と評したが、それをも凌駕する1年を過ごしてきたことを、私たちが感じることができた1戦だったと思う。来る2024年も戦いのフィールドは世界になりそうだが、どこかでこの日を超えるような走りを日本でも見たい一方で、これを破る馬が出てくるのかにも期待したいものである。

<上位入線組に、勝つチャンスはあったのか>

ここから敗れた馬の話に入るが、2着ウィルソンテソーロは既に詳しく触れているので、それ以下の馬についてまとめる。3着に入ったドゥラエレーデは、芝でもダートでも先行してどこまで粘るかという競馬をする馬。ダートの方が後ろに差されにくい分だけ崩れていないだけで、勝つとなると今の戦い方では厳しいのでは。1度大逃げでも試したらとは思うが、そうでなければ今後もこういう結果が続くように感じる。

4着だったノットゥルノも、主戦に戻って差す競馬に戻ったが、結果はついて来なかった。この戦い方に限界が出てきた印象があるし、そもそも時計がかかる際の大井コースでないと結果が出ていない馬。それなら中央所属にこだわる必要すらないのかもしれない。

5着に終わったキングズソードは、JBCクラシックを制した時よりペースが遅かったのに同じ程度の末脚しか使えず、結局バテた馬を交わしただけ。道中の位置取りが変わったことが影響したと思うが、その理由が手変わりなのかは見極めないといけないだろう。

総論として今回勝つ可能性がある競馬ができたのはウシュバテソーロウィルソンテソーロだけ。それ以外の馬は理由はともあれ、チャンスのない競馬をしてしまった。それだけに3着以下の馬に、評価を上げることができた馬はいないと考えている。

<ミックファイアの敗退から見えてくる、ダート競馬変質への序章>

さて地方競馬の期待を背負ったミックファイアだが、スタートで出遅れ、巻き返す形で中団からの競馬。そのまま4コーナーで外に出して末脚を延ばそうとしたが、そこから全く伸びず、中央勢に1頭も先着できない8着に終わってしまった。ダービーGP遠征の後遺症でJBCクラシックもチャンピオンズCも使えず、ここまで待って体制を整えたが、まだ良くなり切っていなかったのだろう。しかしそれが唯一の理由だろうか

それはやはり、豪州産の砂との相性である。大井で砂が入れ替わってから、その影響を論じる声が絶えず続いているが、一般論としてこの砂に対する適性の有無はあると思う。その上でこの砂を導入した競馬場の厩舎関係者から“脚元に優しい砂”という声が上がっていることは、この砂を導入する競馬場が増えることが関係者から期待されている裏返しでもある。

それが現実となった時、ダート競馬は変質する。つまり新しい砂に高い適正を見せる馬が、新たなヒーローとなる時代を迎えるからだ。理想はどんな環境でも結果を残すことだろうが、全ての舞台が均一の環境で行われることは、実はどのスポーツでもできていない。そもそもダートコースに使える砂は限りある資源であり、その資源が国内で枯渇し始めているから海外に求めたことを忘れてはならない。そんな中で馬に携わる者も見る側に立つ者も、その変化や境遇を受け入れつつ、柔軟に対応いきたいものである。

(詳細なレース結果は地方競馬全国協会のオフィシャルサイト等で確認してください)

このあと、2023NARグランプリに関するコラムを掲載します。


by hirota-nobuki | 2024-01-08 20:00 | 地方競馬 | Comments(0)

地方競馬・ダート競馬の発展を願ってやまない博田伸樹(ヒロタ・ノブキ)です。この場を通じて地方競馬・ダート競馬により興味を持つ人が1人でも増えてほしいと願っています。 twitter:@HirotaNobuki


by hirota-nobuki