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乗り役の混沌と背中合わせにあった、栄光の1日-2023JBC戦評

大井競馬場では10回目の開催となった今年のJBC(ジャパン・ブリーディングファームズ・カップ)。前回大井で行われた2020年は新型ウイルスの影響で限られた招待客しか入場できなかったが、入場制限がなくなった今年は3連休初日というカレンダーも相まって、2万4千人余りのファンが埋め尽くした。私自身はネット中継越しにその光景を見ていたが、それでも歓声が戻ってきた競馬場は、興奮だけでなく感動も増幅される。それを再確認させた、国内最高峰の舞台だったのではないだろうか。

ところで今年のJBCのポイントとして、今年に入ってダート統一グレード11勝と荒稼ぎしていた川田将雅騎手が、米ブリーダーズC参戦のためにJBCに騎乗しなかったことがあった。それによって多くの有力馬が手変わりを余儀なくされた上に、枠順発表後も武豊騎手が負傷するなどして、更なる変更が重なった。その結果としてJBCレディスクラシックJBCクラシックは、初コンビとなる鞍上を迎えた馬による1-2決着。手変わりによる泣き笑いがあったことは、今年の特徴と呼べるかもしれない。

その一方でこの開催から使用された豪州産の砂に関する影響は、この1日だけで判断できないだろう。特にJBCスプリントに関しては、それまで豪州産の砂を使うコースでいい走りを見せていなかったイグナイターが制したので、砂そのものに対する適正がもたらす影響は限定的だったかもしれない。ただし以前より時計が遅くなった事実があり、その影響を受けた馬はいたのではないだろうか。そんな悲喜こもごもが詰まった統一GⅠ3レースを、駆け足に振り返っていきたい。

<おことわり>

取りまとめが遅れていたJBCクラシックの振り返りは、19日に追記しました。またJBC2歳優駿は後日掲載するコラムの中で、簡単に触れる予定です。

“代打の代打”に導かれた女王への道! ダート3戦目のアイコンテーラーが、既成勢力を撃破-JBCレディスクラシック

有力所が集結し、牝馬の最高峰を争うにふさわしい豪華メンバーが揃った1戦。だが終わってみれば、4角手前で先頭に立って抜け出したアイコンテーラーのワンマンショーだった。今回がダート3戦目で、牝馬限定の統一グレード参戦も今回が初。しかしそれまでの2戦で牡馬相手に結果を出しており、牝馬路線を歩んでいた馬に決して格負けしていなかった。その底力を如何なく発揮し、牝馬路線を歩んでいた実力馬を撃破することになった。

レースは出方が注目されたテリオスベルダッシュがつかず、1番枠から出たヴァレーデラルナが逃げる形に。その2番手につけたアイコンテーラーは、前にプレッシャーを与えてペースを落とさせない形に誘導し、結果前半1000m61.9秒の厳しい流れに。こうなると2コーナーから捲って出たテリオスベルもなかなか前に届かず、追い付いた時には既に3コーナーまで来ていた。

ここでヴァレーデラルナが一杯になり、アイコンテーラーは押し出されるように先頭に立ったが、馬体を併せてきたテリオスベルとの手応えの差は歴然。直線に向いてそれを振り切ると、一気に後続を突き放し、最後は2着に4馬身差をつける圧巻の走りで頂点を射止めたのである。

勝ったアイコンテーラーは、前走シリウスS当日に、騎乗予定だった主戦騎手が落馬負傷。そこで賞金を上積みし、出走の目処が立ったところで武豊騎手との新コンビで臨むとされたが、枠順発表後に騎乗できなくなって急遽松山弘平騎手とのコンビで臨んだ1戦。言ってみれば“代打の代打”の役回りだった鞍上が、レースを支配して力を引き出す好騎乗で頂点に導いたことは、まず称賛を贈らなければいけないだろう。

その一方でダートに転じてから牡馬相手、特に前走は帝王賞4着だったハギノアレグリアスと互角の競馬をしての2着。ダート3戦目という経験値の差を補うだけの、強い相手に結果を出してきたことが、厳しい競馬をしてなお突き抜ける原動力になっていた。改めて見れば、2着以下は序盤後方にいて追い上げてきた馬ばかり。それを早目先頭で他を寄せ付けなかったのだから、力が違ったといえる結果だったのだと考えている。

むしろこういう厳しい競馬で強いレースをした姿を見ると、牝馬同士よりも牡馬相手の方が力を発揮しやすいかもしれない。次走はチャンピオンズCに向かうというが、この選択は決して無謀と思わない。誰が手綱を取るのかわからないが、展開ひとつで十分チャンスはある。今後の戦いぶりが非常に楽しみである。

昨年2着だったグランブリッジは、今年も外から良い末脚を披露したが、今年も2着。既成勢力に対しては力の差を示す走りをしたけれど、昨年に続いて初対戦の馬に敗れた形。相手が悪かったといえばそれまでだが、力関係がわからない馬との対戦に、この馬のウイークポイントがあるのかも。今期牝馬路線を牽引してきただけに、頂点を射止められなかったのは無念だろうが、引き続き路線の核を担う1頭であり続けるはず。その中でアイコンテーラーを破る可能性を、全否定したくないところだ。

レディスプレリュードを制したアーテルアストレアは、前走同様に直線勝負に賭けたが、前走捉えたグランブリッジを捕まえられず3着。捕まえられなかったのは位置取りの差という印象で、この馬も力は出し切っている。末一手で安定して結果を出せないかもしれないが、間違いなくトップグループの1頭に数えていい存在になったといえる走りだった。

地方勢の期待を背負ったスピーディキックは4着。後方で脚を溜めて末脚に懸けたが、3着から5馬身も離されていては、健闘とはいえない。末脚の破壊力が失われているのは本質的にはマイル以下がベストといえることに加え、最も凄味があった3歳末当時の状態にないのかも。そこまで戻すのに、意外と苦労しそうな気がしてならない。

5着のテリオスベルは、スタート直後の行きっぷりが悪すぎた。しかもペースが落ちていない中で追い上げたので、よくこの着順で踏ん張った印象はある。ただ昨年も先頭に立つシーンを作れなかったことから、レベルが上ったり厳しい展開を周囲に作られたりすると、苦しい戦いを強いられることも明らかになった気がする。

あと6着に終わったライオットガールは、中途半端に前を追いかけすぎた気がするが、レース直前に森泰斗騎手に乗り替わった影響が少なからずあった。この1戦で評価を下げてはいけない。逃げて11着のヴァレーデラルナは、同じく1番枠から逃げて敗れたかしわ記念のビデオを見るかのような敗戦。少なくともこの戦い方は、もうさせてはいけないだろう。

園田に届けた日本一のタイトル・・・イグナイターがスペシャリストを抑え、悲願の統一GⅠ制覇-JBCスプリント

「園田の皆さん、やりました!」-勝利騎手インタビューで笹川翼騎手が発したこの言葉に象徴されるように、兵庫県競馬所属馬として初の統一GⅠ制覇を成し遂げたイグナイターの走りは、今年のJBC最大のハイライトになったと言っていいだろう。しかも地元にはその設定がない、コーナー2つの1200m戦でスペシャリストたちを抑えたことは、我々が想像する以上の価値があるはず。多くの地方競馬関係者に勇気を与えた勝利だったと思う。

レースは前年覇者のダンシングプリンスが、スタート直後に落馬競走中止する波乱の幕開け。ハナ候補がいなくなっただけでなく、そのカラ馬が中団に紛れ込んでその後ろにいた馬に不利を与え続けたのは、悪い意味で見た記憶がない。全能力を発揮できずに終わった馬が少なからずいたことは、あらかじめ触れておきたい。

そんな中、先行争いはロケットスタートを決めたギシギシがハナに立つが、1ハロンを過ぎたあたりで二の脚がついた各馬が殺到し、ラプタスが先頭に。その後はその外に併せていたイグナイターとともに、2頭が併せ馬の形で馬群を引っ張るようになり、その体制のまま4コーナーを回っていった。

そして直線に向いてからも2頭の競り合いが続いていたが、残り200mを切って競り勝ったのがイグナイター。抜け出してからは馬群を割ってきたリュウノユキナに、大外から伸びてきたリメイクが懸命に追ってきたが、追撃を許さず。統一GⅠ5度目の出走で、ついに悲願の統一GⅠタイトルを手にしたのである。

イグナイターの勝因は、前々で流れに乗れたことが1番の要因だ。昨年は初の6ハロン戦に戸惑ったか中団からの競馬になり、前との差を詰められずに5着。全頭解説の際にも触れたように、ある程度先行して流れに乗ることが必要だと考えていた。その意味で逃げ馬の外という位置取りは、その目論見以上。これで負けたらあきらめがつくような競馬を最高の舞台でできたことは、大きかったと感じる。

その上で砂の入れ替えも、間接的に追い風になった可能性もある。というのも2~4着馬に共通しているのは、1200mの統一グレードは勝っているが、1400mのタイトルはない馬たち。大井開催時では最も遅い1分12秒0という勝ちタイムが象徴するように、この距離におけるスピードの絶対値より、それ以上の距離もこなせるスタミナが求められたことは確か。その意味で統一グレード3勝が1400~1500m、前走マイルチャンピオンシップ南部杯で2着だったイグナイターにとって、良かったかもしれない。

ただこの勝利によって今後、レース選択が難しくなったかもしれない。それは斤量との戦いになることもあるが、地元で行われる短距離重賞自体が少ないため、地元でその雄姿を見る機会がなくなる可能性も併せてある。そうなると来春は、今年と同様にかしわ記念から、来年から統一GⅠに昇格するさきたま杯というのが青写真になると思うが、海外遠征の可能性を探りたいという話がある。今後の動向に、細心の注意を払ってみていきたいと思う。

2着に終わったリメイクは、スタート直後にカラ馬に前をカットされる不利などで、4コーナーまでスムーズに運べなかったのは確か。それでも直線大外に持ち出してから前に迫ったものの、プロキオンSで2着だった時のようなジリジリとした脚しか使えなかった。砂の入れ替えによって時計勝負ではない馬場になり、アイコンテーラー同様に“代打の代打”だった御神本訓史騎手も、これ以上は厳しかったと思う。ただ敗因がハッキリしているだけに、評価を下げる必要はないだろう。

昨年2着だったリュウノユキナは3着。馬群を割って出た時はそのまま突き抜けるかと思わせたが、そこで脚が上ってしまった。リメイクほどではないにしろ、やはり時計勝負になった方がいい馬なので、砂の入れ替えはマイナスだったのではないか。それでも崩れなかったのは1200mのスペシャリストとしての意地だが、これで対リメイクは2戦2敗。この2頭の間では、勝負付けが済んだ気もしている。

4着だったジャスティンは、スタート直後にモズメイメイに外へ張られる、小さな不利が痛かった。これがなければイグナイターの外で戦えた可能性があり、そこで一列後ろからの競馬になったことが、差す脚を持っていないこの馬の結果に影響を及ぼしたか。ただそれ以外はスムーズに運べていたので、復調が本物だったと示した一方で、上位陣との力の差は認めなければいけないだろう。

驚いたのは5着に逃げ粘ったラプタス。これまで1200m戦に実績はなかったが、スンナリ逃げるとしぶとい所も発揮していた馬。新しい砂も昨年、兵庫ゴールドT勝利で経験していたことも相まって、見せ場十分の戦いを披露した。それでも統一グレードを勝ちまくった2~3年前の状態にあれば、もっと際どい競馬ができたとは思う。これをきっかけに古豪復活なるか、注意したい所だ。

ところで本題から少し離れるが、落馬競走中止したダンシングプリンスの手綱を取った岩田望来騎手は、JBCレディスクラシックの前検量に遅刻するという失態を起こしていた。それが馬に伝染したことで、スタートでのアクシデントになってしまったかもしれず、結果的にラストランとなったこの馬にとっても後味が悪いものになった。正直失態に関しては同情の余地はなく、騎乗停止処分も当然(交通事情が理由なら原則騎乗停止にならない)だが、だったら即時騎乗停止にしてJBCスプリントも騎手変更させた方が良かったのでは。その運用に関して今後議論しても良いのではと考えている。


史上初の人気馬総崩れ! 上り馬キングズソードが“モレイラ・マジック”に導かれ、国内最高峰の舞台をゲット-JBCクラシック

歴史的にJBCクラシックは波乱が少ない競走だ。過去22回で1・2番人気が揃って連対を外したのはわずか3回。その3回も全て3番人気馬が連対を果たしており、戦前に有力と評される馬がその能力を如何なく発揮してきた。ところが今年、レース史上初めて3番人気までの馬が揃って連対を外す、人気馬総崩れの1戦に。それを尻目に最後の直線で躍動したのは、まだ統一グレード未勝利だったキングズソード。初コンビとなったジョアン・モレイラ騎手の手綱に導かれ、一気に国内最高峰の舞台を制したのである。

逃げた経験がある馬すらほとんどいない中、出ムチを入れてケイアイパープルが先行しようとするが、馬なりでその前に出たのがノットゥルノテーオーケインズ。そして1コーナーで内にいたノットゥルノコーナーリングで先頭に立ち、腹をくくった。この2頭の後ろにはゲートの出が1番良かったキングズソードがつけ、ウィルソンテソーロは中団から。1番人気に推されたメイショウハリオは、いつも通り後方からレースを進めた。

ペースはスタート直後こそ前半3ハロン36.0秒と平均的だったが、その後は12秒台後半から13秒のラップが並ぶ、スローペースに。にも関わらず3コーナーを過ぎても中団以降の追い上げはままならず、前を行く3頭は4コーナーを回る時、後続に3馬身ほどの差をつけていた。

そして最後の直線、前を行く3頭が横並びになっての叩き合いが始まると、その中から抜け出したのは大外にいたキングズソード残り200m付近で抜け出すと、競っていた2頭を徐々に突き放し、最後は2着に4馬身差をつけて栄光のゴールを駆け抜けたのである。

勝ったキングズソードは昨年末に1000万下を制してから5戦4勝でこの舞台を迎えたが、後方から直線で強襲するという戦い方で結果を出していた。それだけに好スタートを切れたこととスローに流れたことを考慮しても、3番手につけた戦い方は予想外。これをジョアン・モレイラ騎手の手腕といってしまえば簡単だが、初めて乗るからこそ先入観を持たずに臨めているのが、彼が“マジックマン”と呼ばれる所以なのかもしれない。

ただ裏を返せば、追い込み馬が無理せずあの位置につけられれば、前を捉えるのは楽だ。それまでと変わらない末脚で突き抜けた走りは、決して嵌ったとは思えない凄みがあったのは確かだ。これで質量ともに豊富な現4歳世代として最初の統一GⅠホルダーとなったが、真価が問われるのはこれから。次走は同じ舞台の東京大賞典になるとの話だが、そこには今回不在だった大物も参戦予定と聞く。そこでどんな走りを見せてくれるか、注目したいと思っている。

急遽森泰斗騎手に乗り替わったノットゥルノは、馬体を27キロ絞って背水の陣といえる仕上げ。それが行きっぷりの良さにつながっていたし、残り100mを切ってからテーオーケインズを差し返して2着を掴んだ要因だったと思う。ただ2分1秒台の勝負になった帝王賞で勝負にならなかった一方で、今回や昨年末の東京大賞典の勝ちタイムは2分5秒台。砂の入れ替えで時計がかかる馬場になったことが後押ししたといえる一方、時計面の限界を垣間見せた好走だったかもしれない。

前年覇者のテーオーケインズは3着。勝つときは突き抜ける一方で、競る競馬になると意外と脆く、最後差し返されたのは象徴的なシーン。もっと早い段階で突き抜ける戦い方ができたら良かったが、そう考えると時計のかかる馬場になったことは、この馬にとって良くなかった気がする。

メイショウハリオは後方から追い上げたが4着まで。末一手の競馬しかできない以上、ペースが遅くなり、自力で追い上げる必要がある展開では仕方ない敗戦。こういう負け方を受け入れないと、今度は勝てる流れになった時に勝てないので、引きずることなく次の戦いに臨んでほしいものだ。

統一グレード3連勝で注目されたウィルソンテソーロは、中団のまま5着。勝負所でゴーサインが出てから全く反応がなかったのは、初コンビだった菅原明良騎手が力を引き出せなかったことが理由かも。馬の方は捲土重来を期してほしいが、鞍上にとっては高い授業料を払った1戦だった。

地方勢はミックファイアが直前で回避するなどしたため、実質的にレースに参加できず。同じ3歳世代のサベージがどこまで戦えるかは気になっていたが、気の悪さも出していた模様で、終始シンガリのまま終わってしまった。日本競馬の最高峰と評するべき舞台がせっかく地方主催で行われるのだから、やはり地方勢にはオールスターキャストが顔を揃えてほしいもの。それが叶っていれば、どんな盛り上がりが見られたのだろうか。

(詳細なレース結果は地方競馬全国協会のオフィシャルサイト等で確認してください)


by hirota-nobuki | 2023-11-14 21:30 | 地方競馬 | Comments(0)

地方競馬・ダート競馬の発展を願ってやまない博田伸樹(ヒロタ・ノブキ)です。この場を通じて地方競馬・ダート競馬により興味を持つ人が1人でも増えてほしいと願っています。 twitter:@HirotaNobuki


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