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コラム 新ダート競馬体系から見える、日本競馬の疑問と課題PART1 新体系検証編

3歳ダート3冠競走の創設など、2024年から本格的に始動する新ダート競馬体系(以降、新体系)。その中で中核的な存在に立つ大井競馬は、5月10日に行われた南関東3歳3冠初戦となる羽田盃を前に“最後の南関クラシック”と題したプロモーションに取り組んでいる。現体系に対する望郷と、2022年11月28日に詳細が公表された新体系への希望が交錯している今、新体系が目指すものを整理しながら、そこから見える疑問や課題をこのコラムで考えていきたい

・新体系のコンセプトは“国内完結型”

改めてになるが、中央⇔地方を横断するダート路線が整備されたのが1995年1997年には体系整備を目的としたダート統一グレードが制定されると、その頂点に位置づけられたJBCが2001年に創設。国内に大きな核となる競走が創設されたことで、ダート競馬は質量ともにレベルアップを果たすとともに、業界内外にも認知度が高まっていった。

この当時の受け止めは、中央⇔地方の交流や、また新たなカテゴリーの創設といった意味合いが強かった。だが最も強い影響を受けたのは、1996年3月に第1回が行われたドバイワールドカップ(以降、ドバイ)の存在だった。世界最高賞金競走の触れ込みでこの競走が、時を同じくして創設されたことで“ダート競馬の最強馬をドバイに”という共通認識を生み、結果としてそれが体系整備に対する最大のキーワードとなった

ただそれは、国内完結型では発展や価値向上に限界があったという意味も含んでいたかもしれない。芝路線が既に国内完結型で確固たる価値を認められていたことに加え、芝をダートより上とする偏見は今も根強い。そのためにダート競馬のステイタスが、早期に芝路線に追いつくために“世界”というキーワードが必要だった。それから四半世紀が経ち、そこにいつまでも甘んじていた現実もあったのではないだろうか。

折しも今年、ドバイをウシュバテソーロが制してその理念が結実したことを、先日の緊急コラム「国内ダート競馬の理念が結実した、ウシュバテソーロのドバイワールドカップ制覇」でも触れた。だからこそ、世界のスケジュールに囚われない形で国内ダート競馬の価値向上を目指した、体系整備に取り組むタイミングだったと私は考えている。

・3歳3冠路線の体系は、2歳路線から継続的な路線整備が実現

1.先行告知されていたように、羽田盃・東京ダービー・ジャパンダートクラシック(旧ジャパンダートダービー)による3歳3冠体系を構築。全て統一GⅠとなり、ジャパンダートクラシックは10月上旬に実施。なおジャパンダートクラシック優勝馬は、JBCクラシックの優先出走権を付与

2.3冠体系補完のため、ブルーバードカップ(1月中旬・船橋)、雲取賞(2月中旬・大井)、京浜盃(3月中旬・大井)、不来方賞(9月上旬・盛岡)を統一グレード化

ここからは各路線の新体系を冒頭で紹介しながら、様々な考察を加えていきたい(負担重量の変更および1ヶ月以下の日程変更は割愛)が、まずは今回の目玉である3歳3冠路線から取り上げていきたい。

まず全日本2歳優駿の後、羽田盃までの空白を埋める形で南関東の3競走が統一グレードとして行われることで、路線の全体像を掴みやすくなったことは素直に評価したい。と同時に、この3競走には派生的なメリットがあると感じている。

その意味で大きな可能性を感じるのがブルーバードカップだ。この競走がもたらす派生的なメリットとは、ケンタッキーダービーを含む、3歳春の海外競走に向けたステップになりうるからである。

実は2017年度からスタートしているJAPANROAD TO THE KENTUCKY DERBYについて、当時そのシステムを疑問視するコラムを掲載した(2016年10月28日付)。その後競走条件やレースが変更・追加され、当初よりはマトモなシリーズに変わっている。しかしその際は敢えて触れなかったが、当時から最終戦にふさわしいと考えていたのが1~2月に船橋で行う1800m戦。それが正に実現することで、国内3冠路線のみならず、海外を意識する馬も集結するビッグイベントになる可能性を秘める。是非ともこのレースを、シリーズ最終戦に指定してもらいたいものだ。

またジャパンダートクラシックの前哨戦として、岩手の不来方賞を統一グレード化したのは、岩手競馬が3歳路線の整備における先鋭的な役割を担ってきたことに対する敬意だろう。と同時に、岩手競馬が経営再建下になければ、ダービーグランプリを3歳3冠の最終戦に位置付けたかったという無念も滲み出ている。理想と現実のはざまで、できる限りの整備がなされた3歳3冠路線と私は考えている。

・不安ばかりの3歳短距離路線。単なる踏み台にされてはならない

1.兵庫チャンピオンシップは1400mに変更され、世代短距離部門の頂点に位置づけ

2.短距離路線拡充のため、「ネクストスター」と銘打った地方生え抜き限定の重賞級認定競走を、2歳秋(南関東以外の8主催者)と3歳春(4地区持ち回り)に実施。3歳春の優勝馬は兵庫チャンピオンシップへの優先出走権を付与

3.古馬統一グレードだった北海道スプリントカップを3歳限定戦に変更し、8月中旬に実施

一方で3歳短距離路線の整備は、不安ばかりが先につくのが正直な感想だ。まず2歳秋のネクストスター競走だが、そもそも2歳秋の段階で距離体系云々を論じるには早すぎる。ここで結果を出した馬を兵庫ジュニアグランプリに誘導することは可能だが、結果として各地で行われる2歳戦の頂点を争う時期を、強制的に前倒ししただけに終わる可能性もある。それを踏まえれば3歳春に行われる、兵庫チャンピオンシップへの優先出走権が与えられるネクストスター競走だけで十分と感じてしまう。

また気になるのは、前哨戦となる統一グレードが存在しないこと。そのため中央勢は、本当に短距離適性の高い馬が名を連ねるのか疑問を感じている。そうでないなら、本来は中長距離路線で活躍したい馬が、賞金稼ぎの踏み台として狙ってもおかしくない。開催時期も兵庫県競馬がゴールデンウィーク開催を譲らなかった以上は仕方ないとはいえ、理念に沿った競走として育っていくか、注視しなければいけないだろう。

これが思ったように機能しなければ、3歳限定戦に衣替えする北海道スプリントカップが、世代の短距離王者を決める1戦として認められていく可能性もある。現状では8月開催とのことだが、これが9月になってJBCスプリントの優先出走権も与えられることになれば、見る目は変わるはず。地元向けの短距離路線を整備してきた南関東の動向も含め、この路線の整備はまだ改善・・・というか発展する余地を多く残していると考えている。

・春に古馬中長距離のチャンピオンロード整備。実現を後押しした“ある変化”とは

1.春の古馬中長距離路線整備のため、川崎記念を4月上旬に、名古屋グランプリをゴールデンウィークに移動

2.名古屋大賞典は年末に移動し、東京大賞典のアンダーカードに

古馬戦線は2022年11月になってようやく明らかになったが、最大の目玉は春シーズンに古馬中長距離のチャンピオンロードが整備されたことだ。

統一グレードが制定された直後、帝王賞に向けた路線は、ゴールデンウィークに行われていたオグリキャップ記念や約1ヶ月前に行われていた東海ステークス。また5月末に行われていたかしわ記念もステップレースとして機能していた。しかしオグリキャップ記念は地方馬限定戦となり、東海ステークスは平安ステークスと入れ替わり実質的な格下げ。さらにかしわ記念は統一GⅠに昇格したことで、明確なステップレースが消滅。結果として中央勢は休み明けで帝王賞に参戦する傾向が強まり、環境整備が強く求められていた

そこで年明けに行われていた川崎記念を4月に移動し、秋のチャンピオンロードの軽量化を図るとともに、併せて名古屋グランプリをゴールデンウィークに移動。これで前後の連動性を欠いていた3月のダイオライト記念を皮切りに、川崎記念→名古屋グランプリ→帝王賞と進む、古馬中長距離のチャンピオンロードが春に整備。同時に川崎記念→かしわ記念→帝王賞という、春の統一GⅠロードも姿を現した

ところで帝王賞が当初の4月から現在の6月下旬に変更した理由に“冬期休催地区所属馬の参加促進”があった。しかし冬期休催のある主催者は、ホッカイドウ・岩手県・金沢の3主催者まで現在は減少。しかも岩手県と金沢は開幕が3月中旬まで早まったため、地元で実戦を使ってから遠征できるし、ホッカイドウ競馬は通年使用できる屋内調教施設(坂路)によって、調整に関する支障がなくなった。つまり取り巻く環境が変化したことが、川崎記念の4月移設を後押ししたことにも触れたい。

そしてこれはドバイワールドカップなど、海外遠征しない、あるいはできなかった馬が目標となりうる路線にもなった。今年のドバイワールドカップは出走馬15頭のうち8頭が日本調教馬だったが、これは春に受け皿となる国内の競走がなかったことも理由の1つ。この路線整備で、猫も杓子も海外を目指す状況が緩和されることも期待している。

・さきたま杯の統一GⅠ昇格は、浦和への忖度か?

1.春に古馬短距離路線の目標となる競走として、さきたま杯を統一GⅠに格上げ。なお同競走は、3歳馬にも門戸が開放される

2.かしわ記念と日程が重なっていたかきつばた記念を、3月上旬に移動

古馬の路線整備で最も驚かされたのが、短距離路線におけるさきたま杯の統一GⅠ昇格だろう。確かに春に短距離の統一GⅠの必要性はあったと思うけれど、この路線に於いて最も求められていたのは、1200mで行われる常設統一GⅠだったはず。その期待に応えず、半ば議論をすり替える格好でさきたま杯を昇格させたのは、個人的には疑問を感じている。

確かに勝ち馬を振り返れば統一GⅠホースも少なくなく、レースが育って来たと考える人もいるだろう。だがこれは、そもそもマイル前後で行われる統一GⅡが、この競走しかなかったという環境もあった。そのためさきたま杯の格上げで、統一GⅠを下支えする統一GⅡが、マイル以下では東京盃1競走だけに。しかも宙に浮いた格好となった北海道スプリントCを3歳限定戦したため、路線全体の競走数まで減少。1200mの常設統一GⅠを設置せず、路線全体の厚みも失う変更に、路線整備が進んだという評価はとてもできないだろう。

結局この意図を突き詰めると、南関東4場で唯一常設統一GⅠが行われていなかった、浦和に対する忖度ではないのか。振り返ればかしわ記念の統一GⅠ昇格時にも、似たような声があったことを記憶しているが、船橋には多数の名馬を輩出する地方競馬最強というバックボーンがあった。それがない今回は厳しい見方をされかねないだけに、この競走が統一GⅠにふさわしい発展を遂げるか、しっかり見極めなければいけないと思う。

なおかきつばた記念の日程変更は、別定重量戦に変わることも含め、ステイタスの向上と位置付けられる。黒船賞と時期と条件が近いためにメンバーが分散される可能性はあるが、短距離路線を歩む馬はレースを選択する余地が現状小さいため、悪い事ではない。むしろ切磋琢磨してもらい、どちらかを格上げしようという気運が生まれることを期待したいものだ。

・総論として前向きな牝馬限定戦の改善だが、総合的な議論を深める余地が

1.春の古馬牝馬路線の目標となる競走として、エンプレス杯を5月上旬に移動

2.TCK女王盃は園田に移設した上で園田女王盃に名称変更し、4月上旬に実施

3.上記2競走が行われていた時期となる2月上旬に、クイーン賞が移動

4.古馬牝馬統一グレードだったマリーンCを3歳牝馬限定戦に変更し、9月下旬に実施。なお同競走優勝馬は、JBCレディスクラシックの優先出走権を付与

牝馬路線は世代限定戦を含めてまとめて触れる。古馬については10月から約1ヶ月間隔で5競走行われていたスケジュールを、ほぐす格好で日程に手が入った。その中で1番の目玉は、エンプレス杯を5月に移動したことだ。日程変更に併せて定量戦に変更されることで、春の牝馬路線の頂点を争う意味合いが強まった。これにより2月末~3月上旬に行われていた現在にある、ラストランとしての意味合いを消し、その意義を2月に移動するクイーン賞に引き継がせたのも悪くないだろう。

またTCK女王盃の園田移設は、1つは大井競馬が3歳3冠路線創設によって増えた経済的負担を軽減する目的が、もう1つは西日本地区の牝馬戦線で活躍する馬を引き上げる意味合いがある。これまでも東海以西に所属する馬が、牝馬限定の統一グレードで上位を賑わせる機会は少なかったが、そもそも勝負になりそうな次元の馬が参戦していない。そういった馬をその舞台に導くことで、レベルアップにつながることを期待したと思う。

更にマリーンカップの3歳限定戦への変更は、JBCレディスクラシックの優先出走権が与えられることも含め、非常に楽しみだ。ただしJBCレディスクラシックは開催場によって競走条件が大きく変わるため、それに併せて距離を変更する柔軟性も期待したい所だ。

総論として前向きなイメージを抱きやすい牝馬路線の改善だが、個人的にはまだ議論を深める余地があったように思う。例えば世代限定戦なら、東京2歳優駿牝馬の統一グレード化や、関東オークス前に統一グレード設置の必要性などが取り上げられるだろう。また関東オークスとエンプレス杯が同じ舞台で争われることが、番組の多様性という意味でどうかと思う所もある。そのため今回は、そういった議論が深まらないうちに、見切り発車的にマリーンカップが世代限定戦に変更された印象がある。牝馬戦線は、これを1つの完成形と捉えない方がいいと考えている。

なお冒頭では触れなかったが、2歳牝馬唯一の統一グレードであるエーデルワイス賞が、JBCと同一週開催になった。これは将来、同競走をJBCのカテゴリーに含めようという意図があるのかもしれない。

・足並みを揃えての発表が何故できなかった?

ここまで各路線の変更点を元にして考察を加えていったが、実は新ダート競馬体系の全てが明らかになったわけではない。それは中央主催の競走について、果たしてどう変わるのか明らかになっていないからだ。

実はダート統一グレードを最も行っている主催者はJRAだ。であるならば、何故地方主催の競走だけを先行して公表したのかが腑に落ちない。唯一日程変更を明らかにしているユニコーンステークスも、変更後の競走条件はいまだ闇の中。その他の競走についても一切手を付けないというのなら、新体系の中で位置づけが曖昧になる競走もあるはずだ。現状で穴となっているように映る部分を、新設などで中央側が補強するような体系が今後明らかになるかもしれないが、それなら尚更、足並みをそろえて公表してほしかった。

だから現時点における路線整備に関する私の見解は、実は中間評価でしかない。そしてNARによる新ダート競馬体系が公表されて以降、JRAとNARの背広組が同席した記者会見は何だったのかという想いが、私からは消えていない。3歳ダート3冠体系が明らかになった際に“日本競馬の覚悟が問われる”と記したが、今のところその覚悟は私まで伝わっていない。それが伝わるものが早急に明らかになることを、私は願っている。

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新ダート競馬体系をテーマとするコラムは、主に周辺環境に関する内容を取り上げるPART2を準備しています。こちらは申し訳ありませんが、6月下旬以降の掲載を予定しています。


by hirota-nobuki | 2023-06-01 22:30 | コラム | Comments(0)

地方競馬・ダート競馬の発展を願ってやまない博田伸樹(ヒロタ・ノブキ)です。この場を通じて地方競馬・ダート競馬により興味を持つ人が1人でも増えてほしいと願っています。 twitter:@HirotaNobuki


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