黄金の地で昇った、未来への希望の光-2022JBC戦評
2022年 11月 14日
統一GⅠ3競走は8年ぶりに盛岡オーロパークに戻ってきた今年のJBC(ジャパン・ブリーディングファームズ・カップ)。競馬場にも徐々にかつての賑わいが戻りつつある中、日本の頂点を争う戦いを一目見ようと1万人を超えるファンが集結。断続的に雨が降る不安定な天候だったが、それを吹き飛ばすような熱気に競馬場は包まれた。
その熱気に呼応するかのように、頂点を目指して白熱した戦いが繰り広げられた。特に今年を象徴するのは、3歳馬の活躍ぶりだ。JBCレディスクラシックではJBC史上初となる3歳馬による1-2フィニッシュとなり、JBCクラシックでも3歳馬が2・3着と好走。今後のダート競馬界に、大きな希望をもたらす結果になった。折しも2024年から国内ダート3歳3冠路線を整備することが明らかになったが、現状の番組体系で3歳馬は出世できたことは、今後議論になるかもしれない。
またJBCスプリントを制したのは、地方移籍で立て直された後に中央に戻ったダンシングプリンス。同様の経歴を持つ馬がJBCを制するのは初めてで、デビューからエリート街道を歩めなくとも頂点に立てることを示した意味で、違った意味で後につづく馬に希望をもたらした。そんな未来への希望に溢れた統一GⅠ3レースを、駆け足に振り返っていきたい。
<おことわり>
JBC2歳優駿は後日掲載するコラムの中で、簡単に触れる予定です。
既成勢力を凌駕した3歳世代! 強気な競馬で頂点に立ったヴァレーデラルナ-JBCレディスクラシック
今年かしわ記念を制したショウナンナデシコを巡る1戦となったが、一方で夏以降に世代交代の芽が出ていたことで、台頭してきた3歳世代が通用するかにも注目が集まった1戦。最後の直線は何が抜け出してもおかしくないせめぎ合いとなったが、最後に抜け出したのはこれが統一グレード初出走となった、3歳世代のヴァレーデラルナ。2番手から直線で抜け出し、北の大地で高らかに世代交代を宣言した。
レースのカギを握っていたひとつは、逃げると予想されたサルサディオーネのペースにあった。実際、レースでも好スタートから楽にハナを奪ったが、前半1000mが61.6秒。盛岡より時計がかかる船橋での前走日本TV盃が同61.0秒だから、かなり慎重な逃げだった。速目のラップで逃げた時に好走例が多かったことを踏まえれば、持ち味を出した逃げとはいえず、結果4角手前で後続につかまり9着。千載一遇のチャンスを、自ら棒に振ってしまったレースになってしまった。
そしてもう1つ、どこかでハナに立ちたいテリオスベルがどこで動き、その時に先頭に立てるかであった。こちらもスタート直後の後方から、向正面で外を回って上昇したものの、3角で先頭に並びかけたところでストップ。上昇する際の勢いが前走などと比べ見劣っていたこともあるが、中途半端な仕掛けになって脚を使っただけ。最後のせめぎあいで真っ先に後れを取り、6着に終わった要因は、そこにあったと考える。
一方でそれ以外のライバル勢は、この2頭の動きを意識しながら対応する力が求められたはずだ。そんな中で勝ったヴァレーデラルナは、好スタートから2番手につけたシーンについて、鞍上の岩田望来<みらい>騎手は“ゲートが決まって2番手で戦えたのが勝因”と振り返った。いい意味でレースのカギを握った2頭の意識を薄めており、かつ強気な競馬をしたのは相当な自信を持って臨んでいたことの裏返しだった。
だから3角で外からテリオスベルに並びかけられても動じる所はなかったし、仮にあそこで抜け出されたとしても、捕まえるだけの手応えはあったのだと思う。実際、最後のせめぎ合いに加わった中で最後にゴーサインが出たのはこの馬。追い出されると最後の坂を力強く駆け上がって抜け出し、後続を封じた内容には、これが統一GⅠ初出走とは思えない風格すら漂っていた。
3歳で牝馬路線の頂点に立っただけに、今後の牝馬路線はヴァレーデラルナが中心になることは間違いない。ただ春に後のジャパンダートダービー1-2着馬と小差の競馬をした経歴をみると、その枠に収まることが勿体なく感じる。牡馬を含む世代トップクラスの評価ができるだけに、早く牡馬相手の統一GⅠで戦う姿が見たい。そこで勝負できる力は、私はあると考えている。
2着にも同じ3歳世代のグランブリッジが、最後に大外を伸びて入った。道中はヴァレーデラルナを前に見ての戦いだったが、勝負所で置いて行かれる格好になったのは、間隔が空いた影響か。それでも懸命に追って最後クビ差まで迫ったのは、それまでの実績が伊達ではなかったといえる。こちらも牝馬戦線を引っ張っていく存在として期待できるが、ちょっとしたことで勝てたかもしれない大舞台を勝てなかったことは、今後尾を引くかもしれない。
人気を集めたショウナンナデシコは3着。比較的内が伸びない馬場傾向の中、終始内々を回らされたのは厳しかったけれど、抜け出しそうな雰囲気がなかったのも事実。戦前に危惧したように、時計が要求される馬場は良くなかったのでは。現状時計がかかる馬場となっている船橋・川崎辺りなら、巻き返す姿か見られるかもしれない。
4着に終わったレーヌブランシュは、勝負所で追い上げた時の勢いは目を見張るものがあったが、最後の直線で伸びあぐねた。仕掛けをもう少し我慢していればとも思うが、昨年のレディスプレリュードを制した時まで戻っていなかったということだろう。なお8日に現役引退を発表しており、自身が届かなかった統一GⅠのタイトルを、子供に託すことになった。
5着のプリティーチャンスは末脚勝負の馬にも関わらず、序盤から押っつけ通し。課題としていた左回りへの適応もあるだろうが、レディスプレリュードを制した時より11キロの馬体増が悪い方に出たとしか思えない。前走の状態でこの舞台に立っていたら、どうだったかと思ってしまう。
最後になるが、勝ったヴァレーデラルナは前走、牝馬限定の準OPを制してこの舞台へコマを進めた馬。中央では昨年から牝馬限定のダート準OPが組まれるようになり、その効果が早速出た格好だが、これは今年の中央枠が7頭あったことも大きい。そこでこういう上り馬への可能性を広げる意味で、ヴァレーデラルナが勝った1戦をレディスプレリュード補欠馬に優先出走権を与えるOP特別にしたらと個人的に考えたが、いかがだろうか。
静寂に秘めた圧倒的なスピード・・・世界を制したダンシングプリンスが、日本最強スプリンターに-JBCスプリント
今年のJBCスプリントを一言で表すなら、それは“静寂”だ。これは盛り上がりに欠けたという意味ではない。毎年我先にと激しい先行争いが繰り広げられるところ、まるで長距離戦を見るかのようにアッサリ決着したからだ。全体のラップを振り返っても、前半3ハロン34.4秒-後半3ハロン34.7秒というイーブンペースは、1200mでこのレースが争われた時には前例がない。それだけに逃げ切ったダンシングプリンスの、スピードの絶対値が際立った1戦だった。
概況記事を掲載した際にも触れたように、逃げた時に結果を出している馬が少なくないものの、この距離で何が何でも逃げたいフロントランナーは不在だった。それだけに1200mのスペシャリストで、かつ逃げられるスピードを持つダンシングプリンスが、前走クラスターCのようにスタートで失敗しないかはひとつの焦点だった。
だが終わってみれば杞憂だった。約1年ぶりにコンビを組んだ三浦皇成騎手は互角にゲートを出させると、強いアクションを起こさずに馬群を抜け出していた。逃げてこそのラプタスとヘリオスも来ていたが、最初からかなわないと思っていたか、競りかける姿勢は見せず。結果ダンシングプリンスはマイペースの逃げとなり、こうなればゴールまで自分のリズムを守るだけ。最後リュウノユキナが迫ったが、危なげなく栄光のゴールを駆け抜けたのである。
これで1200mは、地方時代を含め13戦10勝。この最強スプリンターに対峙できる逃げ馬が見当たらない現状を考えると、今後もこの路線の主役を張ると思われるが、再転入後は短くても2ヶ月の間隔を取って大事に使われてきた馬。条件が揃った舞台に全力投球する姿勢を貫くなら、来年はJBCではなく海を渡るという選択肢もある。今年サウジアラビアで行われたリヤドダートスプリントも制した実績もあり、そこで期待できるだけのスピードを備えているのだから。
3角から前との差を詰めていったリュウノユキナは、直線でも1頭だけ逃げるダンシングプリンスに迫る走りを見せたが、4分の3馬身届かず2着。過去ダンシングプリンスと2勝2敗という対戦成績もあり、外枠を引いていたために必要以上に外々を回らされたロスは見た目以上に響いた。もう少し内枠を引いていたら、もっと際どい勝負に持ち込めたはずだが、改めて1200mならトップクラスであることを印象付けた走りだった。
一方で人気を集めた東京盃1-2着は、揃って沈んだ。前年覇者のレッドルゼルは1番枠でダッシュがつかず、腹をくくって最後方から。そこから大外に持ち出して上り33.5秒という極限級の末脚で追い込んだが、4着が精一杯だった。手綱を取った川田将雅騎手は“ゲートで集中力が切れた”ことを理由に挙げていたが、今回の枠順とこの馬の脚質を踏まえれば、この戦い方がベターだったのでは・・・という考えも抱いている。
また7着に終わったテイエムサウスダンは、中団の外々で終始振り回される格好。そしてゴーサインが出ても前との差が一向に詰まらず、見せ場なく終わってしまった。振り返れば東京盃の勝ちタイムは1分10秒6で、今回より1.5秒も遅い。1200mを専門的に使われてきた1-2着馬に対し、それより長い距離もこなせるこの2頭にとって、この距離の時計勝負に対応できなかったことを最大の敗因と位置付けたい。
この他の馬は簡単に触れるが、2番手から3着に流れ込んだヘリオスは、逃げなられない場合は相手なりに走れる適応能力は示した。しかしこの形で最後ひと脚使える姿を今更期待するのは酷で、逃げられる舞台を探す日々を続けることになる。園田から参戦したイグナイターは、前走マイルチャンピオンシップ南部杯と同様に内々で立ち回ったが5着止まり。初の1200m戦を考えれば健闘だが、器用さが要求されるコーナー4つの競馬の方が、力を出せる印象を強くした。
6着ティーズダンクは最後良く追い込んだが、さすがにこの距離は忙しかった。昨年の金沢でこの舞台に立っていれば、もっと戦えたはずだ。唯一の3歳馬プライルードは、中団のまま8着。まだここで通用する力はなかったの一言で十分で、この経験を来年活かしてほしいと思う。地元の期待を背負ったキラットダイヤは、初の強敵相手に呑まれてしまい10着。それでも来年改めてという声があるようなので、捲土重来を期してほしいものだ。
今回は1200mを主戦場とする2頭で決着したが、この2頭は昨年のJBC以降、大井以外で行われた1200mの統一グレード3戦全てで直接対決していた。それだけこの距離にかけてきた馬が結果を出したことは、年間を通じて番組が機能していたともいえるが、トップクラスの馬が使える1200mが少ない現実も変わっていない。これを言わなくなる日が果たして来るのだろうか。
昨年の教訓を活かし、盤石の戦い・・・テーオーケインズが3歳勢を封じ、貫録の統一GⅠ3勝目-JBCクラシック
発走直前、JBCの中継を行っていたBSフジの映像に、見慣れない光景が映った。それはテーオーケインズがレースで使用しない16番ゲートを用い、枠入りの練習を行っていた姿だった。思えば昨年のJBCクラシックは、スタートの失敗からチグハグなレースになって4着。その教訓から、同じ轍を踏まない姿勢を見せたことに、負けられないという強い意志を垣間見た。その成果か、互角のスタートから盤石の戦いぶりを披露し、昨年の忘れ物を手にすることになった。
レースは徹底先行不在の中、好枠を利してクラウンプライドの逃げで始まったが、それまで追い込む競馬をしていたフィールドセンスが2番手につけたのは意外。もしかしたらスローになることを見越して、用意していた作戦だったかもしれない。3番手につけたペイシャエス以下もスンナリ隊列が決まり、ゆったりした流れで1コーナーに入っていった。
勝ったテーオーケインズは、この時中団。互角のスタートを切ったことで、前で戦うこともできたはずだが、内枠勢を先に行かせてこの位置に収まった。無理をしていないし、さりとて前と離されているわけでもない、理想的な位置で流れに乗ることができた。
そして3角手前でゴーサインを出し、前との差を詰め始める。結果的に前が残る展開だった故、このタイミングは決して早くない。すると直線に向いた所で2番手まで上がると、残り100m手前で逃げるクラウンプライドを捉えて先頭に。その勢いで最後は2馬身半の差をつけて、日本一の称号を手にする勝利を手にした。
思えば昨年以降、テーオーケインズが国内で負けたのは、出遅れた昨年のこのレースと、乱ペースに巻き込まれた前走帝王賞の2戦だけ。落ち着いた競馬ができた時は、6馬身差をつけた昨年のチャンピオンズCのように、ハッキリした着差をつけて勝っている。今回もそういう競馬で、古馬統一GⅠ優勝馬が2頭だけというやや小粒な組み合わせもあって、力の違いを見せつけた。次走はチャンピオンズCに向かうはずだが、今回3歳勢を抑えたこともあり、まだまだタイトルを積み重ねそうである。
逃げたクラウンプライドは、テーオーケインズには交わされたものの2着を確保。理想的なペースで引っ張り、最後も止まった訳ではないので、今回に関しては力負けでいいだろう。それでも3歳馬が初の古馬統一GⅠで、これだけ走れれば合格点。まだ良くなる余地はあるはずで、後はどこでテーオーケインズとの力関係をひっくり返すことができるか。世代レベルを踏まえても、その機会は訪れる気がしているが。
同じ3歳世代のペイシャエスも、道中3番手から3着に踏ん張った。速い時計が出る盛岡コースが向いたことと、流れに乗れたことが好走の要因だが、ユニコーンS勝ち馬の割に距離に耐性があるのも確か。とはいえクラウンプライドにこの秋連敗したのは、現状の力関係だろう。統一GⅢクラスでいいから、古馬相手にタイトルを手にして、自信をつけながら成長してほしいものだ。
4着には後方から追い込んだクリノドラゴンが突っ込んだ。末一手でそれ以外の競馬ができない馬だが、前が止まらない競馬でここまで追い込んできたのは、力をつけている証拠。とはいえ統一グレードに手が届くには、余程展開に恵まれるか、戦い方を変えるかしかないだろう。
帝王賞を制して真価が問われたメイショウハリオは5着。テーオーケインズが動いた時に反応できず、そこで置かれた分を最後まで詰められなかった。関係者は左回りに敗因を求めていたが、それ以前に流れが落ち着き、底力勝負になって通用していない。現状では展開待ちの立場にいることがハッキリした1戦だった。
7頭出走した中央勢が7着までを独占し、地方勢最先着は8着のギガキング。自身はこれでマーキュリーCと同等の時計で、自分の力は出し切ったといえる。2番手追走のレースをしたフィールドセンスは、3角で一杯になって結局11着。意欲は示したが、この競馬で通用する力はなかった。
盛岡でJBCが行われたのはこれが3回目だが、3回ともクラシックは中央勢が掲示板を独占している。コースの優秀性がオーロパーク最大の利点ではあるが、そのためか地方勢のメンバーが揃わない傾向にあるのは残念なところ。今年は日本TV盃を制して優先出走権を得たフィールドセンスが出走し、最低限の格好はつけたといえるが、ここに名を連ねて欲しかった地方馬は他にもいた。今度盛岡にJBCが戻ってくる際は、地方勢も充実したメンバーが揃ってほしいものである。
(詳細なレース結果は地方競馬全国協会のオフィシャルサイト等で確認してください)
