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コラム 導入された大井左回り。拡大に向けて見えてきた課題とは

2021年11月19日。導入に向けて準備を進めていた大井競馬場の左回りレース(以降、左回り)が、初めて実施された。当日は新型ウイルス対策で事前抽選制だった一般入場者を上限つきで入場を認め、より多くのファンに見ていただけるよう対応。しかもこけら落としとなったこの日の最終レースで勝利した御神本訓史騎手が、地方競馬通算2500勝を達成したことで、より知っていただく効果もあった。あれから半年近くが経過し、今後拡大するための課題も見えてきた印象がある。それを“試行期間”とされている、今のうちに指摘しておきたい。

本コラムに関しては、過去に掲載したショートコラム「左回り導入計画公表の大井競馬場。その背景と課題」もご参考ください。

https://hirotanobukihorse.exblog.jp/30716116/

<出走馬には制限あり。しかし騎手は・・・>

まずは左回りの概況から紹介する。左回りのゴールは右回りの残り200m地点に設定。そのためここに設置されているハロン棒は“2/G”と、左右両回り(以降、両回り)で表示されている(他のハロン棒は、両回り表示をしていない)。また驚いたのは、ゴール板を内側にある練習馬場の内ラチ沿いに設けたこと。かつて両回りで実施していたJRA東京競馬場ではゴール板の誤認という問題が現実に起こっていたが、それを防ぐ目的があると思われる。

現在左回りで行われている1650m戦は、右回りにおける残り150m地点からスタートし、外回りコースをほぼ1周する形。まだ慣れていない上に、1コーナー(右回りにおける4コーナー)まで約250mと比較的短いことから、フルゲートの設定は12頭になっている。なお実施にあたり、新たに左回り用のスターティングゲートが使用されていて、また1世代前に使用されていたファンファーレを復活させたことも話題になっている。

さらに現在、左回りは大井所属馬限定で行われている。他場所属馬は左回りに慣れているからなのか、大井所属馬は調教で経験できるからなのかわからないが、一方で騎手は大井所属以外でも騎乗することができる。これが大井所属の騎手が左回りに慣れていないからという理由なら、導入前に模擬レースを多数実施し、そこで全ての大井所属騎手に1度は経験させても良かった気はする。この騎手の件については、後で改めて触れる機会を作る。

<左回り導入で複雑化した、4号スタンドの未来>

ここからは将来の運用拡大に向けて、課題となりそうな問題を取り上げたい。まず取り上げないといけないのは、左回りの決勝審判施設などが入っている4号スタンドの扱いだ。

旧スタンドとして唯一残っている4号スタンドが完成したのは1974(昭和49)年で、間もなく築50年を迎える。解体された旧スタンドで最も長く使用された旧2号スタンドは59年間運用していたとはいえ、左回り関連がなくとも今後どうするかの議論は避けて通れなかった。だがこの施設を使用して運用する左回りの導入によって、この議論が複雑化した印象を私は感じている。

つまり建て替えを行うとして、仮設の業務施設を設けて左回りを続けるのか、その間は左回りを休止するのかを判断する必要が出てきたからである。もし前者なら1開催1レース程度のためにそれが必要なのかという考えになるし、それによって本来の右回りを実施する際、映像などに支障が生じないようにしなければいけない。右回りだけやっていた時と比べ、確認すべき材料が大幅に増えているのだ。

一方で後者の選択をした場合、少なくとも1年程度の休止期間が必要になる。建て替えまでに左回りにおける問題点を洗い出し、建て替えに併せてその改善も図る時間とすれば聞こえはいい。しかし実際にレースを行う騎手が積み上げた経験値は、そこで一旦リセットされかねない。もう1度最初からやり直しとなるのは、勿体ない気もするのだが。

<最大の障壁は、昼開催時の“西日”か>

だが最大の障壁は、大井競馬場のスタンドが南向きに建てられているところにある。これを方角的に説明すると、左回りでは最後の直線で西に向かって走る格好になる。すると昼開催時は最後の直線で、騎手は西日に向かって馬を追わなければいけないからだ。

実際に現中央所属で元大井所属だった戸崎圭太騎手が、スポーツニッポン紙に連載しているコラム(1月29日)で、昼開催時の大井競馬場は向正面で非常に眩しくなると指摘をしていた。ここでいう向正面とは右回りにおけるものなので、方角的に左回りなら当然最後の直線を指す。左回り専用ならいざ知らず、左右兼用の大井でそれに慣れるのは容易ではないだろう。

そこで私自身も左回りでどれだけ眩しいのか改めて確認するため、2月11日に大井競馬場に赴き、スタンドからの視点で確認してみたが、左回りが行われた最終レースの時間帯はかなり眩しい。これを避けるなら、左回りは完全に陽が沈んでからか、もしくは午前中~12時前後までの早い時間帯に限られてしまう。そのため最終目標ではないかといわれている、東京大賞典の左回り開催に向けては、かなりハードルが高いことが窺えるのだ。

<今後の命運を握るのは、騎手の声>

なお左回りで2000mを行うとするなら、新たなシュートを作る必要があるが、それ自体は大きな問題にならないだろう。右回りの1コーナー付近にある組合事務所などを建て替える必要はあるはずだが、右回りの1400mスタート地点付近まで引き込めれば距離は取れるはず。新たな土地が必要な訳ではないので、着手すれば長い時間をかけるものではないと思われる。

ただそれに着手するまでには、左回りを拡大させるかの結論を出す必要があるはずだ。その命運は騎手が安全に競馬をできるかどうかの声で決まると思っているが、その上で気になることがある。それは6レース終了した3月11日現在、現役の大井所属騎手31人中13人が左回り未経験ということである。

確かに騎手によっては左回りで騎乗したくない人がいるかもしれない。ただプロであるならば1度は実戦で乗った上で、その後自身がどうするかを考えてほしいし、その立場でこの取り組みに影響を及ぼすような動きもしてほしくないからだ。

それだけに将来に向けて、1人でも多くの騎手が経験を積み、将来に向けて建設的な意見を出し合ってほしい。そしてその議論を牽引するのは、大井所属騎手。彼らには目の前の勝利だけでなく、大井競馬場を世界基準にするための課題を探りながら、左回りに向き合ってほしいと思っている。

(参考)大井左回りで活躍している騎手(3着以内1回以上かつ5着以内2回以上)

岡村健司(船橋)<1・2・0・0・0>

張田昂(船橋)<1・0・1・0・1>

森泰斗(船橋)<1・0・0・1・2>

和田譲治(大井)<0・2・0・1・1>

東原悠善(大井)<0・1・0・2・1>

町田直希(川崎)<0・0・2・1・1>

凡例・左から騎手名(所属)<1着・2着・3着・4~5着・6着以下>


by hirota-nobuki | 2022-03-24 22:15 | コラム | Comments(0)

地方競馬・ダート競馬の発展を願ってやまない博田伸樹(ヒロタ・ノブキ)です。この場を通じて地方競馬・ダート競馬により興味を持つ人が1人でも増えてほしいと願っています。 twitter:@HirotaNobuki


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