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コラム 東日本大震災から10年−公営競技から消えた意義と新たな役割

2011年3月11日、午後2時46分東北を震源とするマグニチュード9.0という大地震が日本列島を襲ってから、今日で丸10年を迎える。ほぼ毎年この日には震災にまつわる話をこのブロマガで記してきたが、この10年で公営競技には“社会貢献”という新たな役割が定着したように感じている。だがそれは、ひとつの意義が事実上消滅したことも意味している。今回はそれを語りつつ、これからの社会貢献に必要なことも考えてみたい。

・主催者の定義にみる、戦後公営競技の存在意義

第二次世界大戦の終戦後、全国各地に作られた競馬場で地方競馬が行われたのは“戦災復興”という意味合いが大きかった。しかしその役割が果たし終わると、新たな存在意義が求められることになり、それが主催自治体に対する“財政貢献”だった。しかし競馬法で定義されている主催者を調べてみると、地方競馬にはもう1つの存在意義があることがわかる。そこでまず、地方競馬を主催できる自治体を紹介しておきたい。

1.都道府県
2.競馬場がある市町村
3.著しい災害を受けた市町村
4.1または2から委託を受けた自治体

この中で注目したいのは“3”で、このことから“災害復興”も地方競馬を開催する1つの意義であることが裏付けられている。1つ具体例を紹介すると、1948(昭和23)年に岩手県を襲ったアイオン台風による大規模水害が発生した一関市が“災害市”の指定を受け、翌1949年より水沢競馬場にて一関市営競馬を開催した例がある。1963年(昭和38)年まで開催された市営競馬(注)で、約3500万円の収益をあげ、災害復興に寄与したのである。

ただし“災害復興”を理由に競馬を主催した自治体は、直近でも数十年のスパンで過去の話だ。当然である。右肩上がりに売り上げを伸ばしていた時代ならともかく、少なくとも昭和50年代には公営競技、特に開催コストが膨大な地方競馬は黒字が保証された業界ではなくなっていた。災害復興のための開催で赤字が生まれるリスクを考えれば、もう1つの開催意義が形骸化するのも仕方ないことだったのだ。

(注)一関市は1964(昭和39)年に設立された岩手県競馬組合にも参加。1968(昭和43)年3月に“災害市”の指定切れによる脱退まで、競馬事業を行っていた。

・阪神淡路大震災が端緒となった“復興支援競走”

そんな時代になってしばらく経った1995(平成7)年1月17日に、兵庫県を震源とする阪神淡路大震災が発生。競馬界でもJRA阪神競馬場と園田競馬場が被災し、開催不能となったことを覚えている人も多いだろう。当時未曽有だった震災を受け、JRAは直後に兵庫県などへ総額5億3000万円の寄付を実施。またこの年の宝塚記念開催週を“復興支援競馬”として開催し、その売上等から24億円を拠出している(翌1996年にも宝塚記念開催週に実施)。

それまで公営競技による寄付や社会貢献活動といえば、馬主会や騎手会(競馬以外の公営競技であれば選手会)といったプレイヤー側によるものはあったが、主催者が直接被災地に寄付を行ったことは画期的だった。なぜならこの時、JRA内部でも“何らかの法に触れていないか”などの不安があったという報道があったことからも、その心理的なハードルが高かったことが窺えたからである。

だがこれで心理的な足かせがなくなったことで、阪神淡路大震災の復興支援を目的とした開催は、JRA以外の公営競技主催者にも広がった。この取り組みは一定の役割を果たしたとして数年で終了したものの、売り上げの一部を必要なところへダイレクトに届ける“社会貢献”の形は、公営競技の新たな役割として、この時に植え付けられたと考えている。

・広がりを見せる支援の取り組み

東日本大震災は競馬界の一部地域を除き、公営競技は開催中止を余儀なくされた。すると公営競技関係者も街頭に立ち、被災者支援の募金を呼び掛ける活動を繰り広げた。ある日私は、当時大井のナンバー1ジョッキーだった戸崎圭太騎手が、募金箱を手に大声で歩く人に呼び掛けながら頭を下げ続けていた姿を見たことがある。必死に想いを訴えるその姿に、本人に歩み寄って募金をするとともに、ねぎらいの言葉をかけさせていただいたが、あの時の真っ直ぐな瞳は今も忘れることができない。

そして開催が再開されると、阪神淡路大震災時の経験をもとに、売り上げの一部を被災地へ送る東日本大震災被災者支援競走が継続的に実施された。その総額が公営競技界全体でどれだけになったのか定かではないが、震災を、被災者を忘れないという想いは確実に届いたはずだ。

あれから10年。日本列島は2016年に発生した熊本地震や、大規模な豪雨災害が各地で頻発。その度に各種公営競技で被災者支援につながる開催を実施し、その収益を被災者に届けてきた。また昨年から社会を不安に陥れている新型コロナウイルス感染症に対しては、医療従事者などに対する支援競走も行われている公営競技による“社会貢献”の取り組みは、新たなフェーズに入ってきたのではないだろうか。

・これから“社会貢献”を進める上で必要なこと

では今後も公営競技主催者が社会貢献を行っていく上で必要なことは何か。主催者にとって何より大事なことは“健全経営”で、社会貢献を行ったことで経営が赤字になってしまっては本末転倒。しかも公営競技は、主催自治体への“財政貢献”を上回る役割を担うことができない。健全な黒字を出しながら、それぞれの身の丈に合った社会貢献を継続して行う、または必要な時にできる体制を構築することを主催者には求めたいと思う。

そしてプレイヤー側に求められているのは、コンプライアンス(法令順守)の姿勢だ。残念なことに最近になって、その存在意義を揺るがしたり、社会的なモラルを失っていたりすると言わざるを得ない報道が、公営競技界にみられている。その個々の評価や真偽については触れないが、こういった事案が相次げば、社会貢献に対する価値が毀損するだけでなく、その主催者の経営や公営競技全体の評価にも影響を及ぼしてしまう。それだけに社会の一員として必要なことを改めて自覚した上で、競技に参加することを私は願っている


by hirota-nobuki | 2021-03-11 14:00 | Comments(0)

地方競馬・ダート競馬の発展を願ってやまない博田伸樹(ヒロタ・ノブキ)です。この場を通じて地方競馬・ダート競馬により興味を持つ人が1人でも増えてほしいと願っています。 twitter:@HirotaNobuki


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