コラム 「ロンジン ワールドベストレースホースランキング」2020発表
2021年 02月 16日
世界中で猛威を振るった新型コロナウィルスの影響は、人の移動が世界的に制限されたことで、海外遠征に対する障壁を生んだ。その象徴的な出来事がドバイミーティングの中止だったが、それ故に日本競馬は国内で名勝負が生まれる背景にもなった。先日2020年版が発表された「ロンジン ワールドベストレースホースランキング」では、各馬の評価はその競走の歴史的評価に寄り添う部分があり、私自身もそれを基準に評論することが多いが、それは歪んだ評価を生み出す可能性もあった。その意味で2020年は、その馬のパフォーマンスを競走の歴史に左右されずに数値化する、第一歩にできるのかもしれない。
毎年このブロマガでは、国内向けに発表される「JPNサラブレッドランキング」のダート部門について個人的な考察を加えながらコラムをまとめているが、今年も例年と同様に紹介していきたい。
おことわり・本文中の“今年”は2020年を、“昨年”は2019年を示します。
・最高評価を得たのは2年連続でクリソベリル。昨年を上回る119は、国内における評価としては史上2位タイ
今年のダート競馬界は昨年最高評価を得たクリソベリルの動向に注目が集まっていたが、同馬は元々、今年は海外中心のローテーションを志向していた。ところが海外2戦目になる予定だったドバイワールドCが中止になると、その後は国内に専念。すると帝王賞とJBCクラシックで他を圧倒するパフォーマンスを披露して、国内ダートナンバー1の座を確立するシーズンを送ることになった。
その2戦で得た評価は、昨年の118を上回る119。昨年の段階では高すぎる周囲の評価に引っ張られる形で評価が上がったと指摘したが、今年のパフォーマンスを見せられたら、むしろ120に届かなかったことが残念に思うほど。しかしこの数字も国内のダート戦で得た評価としては、2008年のカネヒキリ(JCダート)、2011年のトランセンド(JCダート)、2014年のホッコータルマエ(東京大賞典)に並ぶ、史上2位タイ。歴史的名馬として後世に語り継がれるにふさわしい評価を、レーティングの上で得たことは間違いないところだ。
JBCクラシック直後のチャンピオンズCで4着に敗れ、国内での無敗に終止符が打たれたこと。また直後に故障が判明してしばらくその雄姿が見られないのは残念だが、既に国内で何かを目指すとするなら、コパノリッキーが持つ統一GⅠ11勝を上回ることぐらいしかない。だがそのためだけに現役を続行する馬ではないと思うのも確かで、復帰を願いつつも、もしかしたら重い決断に向き合う時が意外と早く訪れるかもしれない。
・チャンピオンズC制覇のチュウワウィザードは117。オメガパフュームは3年連続で115止まり
そのクリソベリルをチャンピオンズCで破ったチュウワウィザードは、昨年のJBCクラシックおよび今年の川崎記念で手にしていた115を上回る、117の評価を得た。例年上振れする競走で、また帝王賞とJBCクラシックでクリソベリルに完敗したことを踏まえれば、少し評価は高い印象は否めない。だが2着に2馬身半差をつけたという事実から、受け入れるべき評価と考える。
一方、東京大賞典でレース史上初の3連覇を果たしたオメガパフュームは、今年も過去2年と同じ115に止まった。これは帝王賞とJBCクラシックの2着(他に平安S1着)で得たもので、そこで自身のパフォーマンスに衰えはなかったと評価されたのは、ある意味救いだった。しかし東京大賞典に限れば111止まり。その理由はこの後、改めて取り上げる機会を作る。
今年1800m以上の競走で115以上の評価を得たのはこの3頭だけで、昨年古馬の最高評価となる117を得たゴールドドリームとインティは、今年はともに112に落とした。どちらも年間未勝利と満足いく成績を残せなかったこともあるが、過去の評価が高すぎたのも事実。ただこれでも1800m以上の競走による評価としては4位タイであり、チャンピオンディスタンスにおける層の薄さが垣間見えた年でもあった。
・フェブラリーSを制したモズアスコットに不可思議な高評価。短距離部門はサブノジュニアら4頭が111で並ぶ
ここではチャンピオンディスタンス以外の古馬に関する評価を紹介する。年間3戦行われるマイルの統一GⅠ優勝馬は、フェブラリーSを制したモズアスコットが117と、チャンピオンズCのチュウワウィザードに並ぶ高評価を獲得。またかしわ記念を逃げ切ったワイドファラオは115、マイルチャンピオンシップ南部杯を日本レコードで制したアルクトスは114の評価となった。
ここで驚かされたのはモズアスコットの評価だ。これは2018年に芝で118のレーティングを手にしていたこと、また同競走で統一GⅠ優勝経験馬が2−3着に入ったことが背景にある(実際、レース直後の暫定値は118だった)。ただこれが適正とするなら、クビ差2着だったマイルチャンピオンシップ南部杯が凡走に近い評価になってしまう。著しくバランスを欠いている印象が否めず、マイルチャンピオンシップ南部杯(レース直後の暫定値は115)はまだしも、フェブラリーSとかしわ記念は最低2ポイント上振れしたと私は考えている。
一方でスプリント部門は、最高峰であるJBCスプリントを制したサブノジュニアが、昨年同レースを制したブルドッグボスと同じ111の評価を同競走で手にした。さらに111には年間重賞3勝を挙げたジャスティン(カペラS)と、JBCスプリント3着のブルドッグボス(東京盃2着)も並んだ。突き抜けた路線の牽引役がいない代わり、上位陣がハイレベルで切磋琢磨した1年だったことを象徴している。
一方で気になったのは、サウジアラビアで新設された国際競走・サウジアC2着で国内専念組と同じ111の評価を得たマテラスカイが、国内では107(JBCスプリント2着など)が最高だったこと。海外でより良い結果を出す傾向にある馬だが、その先入観は同馬が好走したスプリント戦の評価を押し下げていないだろうか。JBCスプリントの歴代覇者は平均112を得ている上に、マテラスカイ自身も過去に国内で111の評価を得た経験があるのだから。
また牝馬路線はJBCレディスクラシックを制したファッショニスタが、過去3年の同競走優勝馬と同じ107となった。以前の牝馬トップは108が目安だったが、当時は牝馬路線の層が薄く、同じ馬が勝ち続けやすかった。それ故に高い評価を得ていたとするなら、層が厚くなったことで評価が下がるという、皮肉な状況を生んでいることになる。
なお古馬全体をまとめると、115以上は昨年より1頭増の5頭、110以上は昨年より4頭増の21頭である。これはマイル以下を主戦場とする馬に、高い評価を得た馬が多かったため。なお昨年のマイルチャンピオンシップ南部杯を制し、当時113の評価を得たサンライズノヴァは、今年も2勝した統一GⅢでともに113を獲得。また昨年短距離部門で最高の112を得たコパノキッキングは、マイルカテゴリ(根岸S2着)で110の評価を得ている。
・3歳部門は平均レベルの評価。2歳部門のアランバローズは、地方所属馬として歴代最高評価
ここでは世代別の評価を紹介する。3歳馬でトップに立ったのはジャパンダートダービーを制したダノンファラオと、ユニコーンSを制したカフェファラオで、ともに112の評価となった。年間最高評価を得た過去2年のジャパンダートダービー優勝馬と比べれば見劣るものの、これで世代トップの評価は平均レベルである。ただしダノンファラオは古馬相手の浦和記念を勝った時の評価で、ジャパンダートダービーでは111だった。
また100以上の評価を受けた3歳馬は、海外で110の評価を得たフルフラット(サウジダービーC)を含め25頭。昨年より1頭減っているものの、思ったより多いという印象がある。昨年も指摘したように全体の底上げが進んでいる事実は認めても、一方で3歳限定のOP特別・リステッド競走1着馬に対するレーティングが105前後あるのは、少し高い可能性はある。逆にいえばこれが適正な評価なら、これらの競走の統一グレード化を推し進めても良いことになるが。
そして2歳馬は、全日本2歳優駿を無敗で制したアランバローズが110を獲得。2歳馬の歴代最高である2017年のルヴァンスレーヴの111には届かなかったが、地方所属馬に限れば2013年のハッピースプリント、昨年のヴァケーションの108を上回る歴代最高。全日本2歳優駿における5馬身差圧勝が、最大限評価されたと考えている。
また100以上の評価を得た2歳馬は、昨年と同じ11頭。昨年初めて2桁に乗ったが、今年もクリアした。これは久しくなかった中央主催のOP特別が組まれたこともあるが、第1回JBC2歳優駿が、北海道2歳優駿時代を含め過去最高のレースレーティング(勝ったラッキードリームは104)となったことが大きい。そこで上位に入ったホッカイドウ競馬所属馬を始め、地方所属馬が史上最多となる6頭がランクインしている。
・東京大賞典2着のカジノフォンテンが110に止まった背景は
ここからは、これまで登場していない地方所属馬のレーティングを紹介したいが、まずは東京大賞典2着のカジノフォンテンの話から進めたい。3連覇を果たしたオメガパフュームを苦しめた走りがどれだけ評価されたか注目されたが、昨年3着だったモジアナフレイバーと同じ110という評価は、思ったより低いと感じた人もいたと思う。
その要因は2つあるが、1つは東京大賞典自体に高いレーティングを持っていた馬が少なかったこと。レース前に公表されたプレレーティングで2番手だったダノンファラオの112は、昨年の出走馬に当てはめると5番手まで下がる。それだけ評価されにくいメンバー構成になったことは、無関係といえないだろう。
そしてもう1つは、カジノフォンテンが重賞初制覇を果たした勝島王冠の評価が低かったことだ。プレレーティングで公表された同競走の評価は101。しかし2馬身差2着のノンコノユメが帝王賞5着で110、3着モジアナフレイバーがマイルチャンピオンシップ南部杯で111(後に修正され110)を手にしていたと考えれば、この両馬がこの1戦で100未満のパフォーマンスだったと評するのは厳しすぎる気もした。
確かにレーティングが低い馬は、いきなり大舞台で高いパフォーマンスをしても、評価されにくい傾向はある。また昨年このコラムで地方重賞の積極的な評価を求めたが、まだ足りない現実もある。私は勝島王冠で104まで評価できる(2着ノンコノユメで100の意)と考えていたが、その数字を持った上での東京大賞典だったら、その評価はもう少し上がったのではないだろうか。
・ノンコノユメは通算5度目の110以上。3歳馬は4頭ランク入りも、ダービーGP馬フレッチャビアンカは届かず
前段でも軽く触れたが、110にはノンコノユメとモジアナフレイバーが名を連ねた。ともに重賞未勝利に終わったが、モジアナフレイバーはマイルチャンピオンシップ南部杯3着が高く評価され、2連連続で110を獲得。またノンコノユメは昨年の113から評価を落としたが、これで110以上は3年連続かつ通算5度目。唯一届かなかった2017年も109であり、高いレベルで息長く活躍していることを示している。
また昨年3歳時に高い評価を得た南関東4歳世代は、今年統一GⅠで3度入着を果たしたミューチャリーが、東京大賞典5着で昨年と同じ108を獲得。昨年の東京ダービーなどで104の評価を得たヒカリオーソは、川崎記念2着で107の評価を得た。カジノフォンテンを含めて期待に違わぬ活躍をしたことを、レーティングの上でも印象付けた。
この他に古馬で今年統一グレードを制した馬は、10歳にして北海道スプリントCを制したメイショウアイアンが104、牝馬限定の統一グレードを2勝したサルサディオーネが103となった。サルサディオーネは中央時代の最高値が102(2018年)だったので、地方移籍で評価を上げることに成功した形だ。
一方3歳馬は、ジャパンダートダービーで100以上の評価を得た地方馬がいなかったこともあり、東京ダービーを制したエメリミットの103が地方馬における最高評価。さらに羽田杯を制したゴールドホイヤーも、東京ダービー2着のマンガンと同じ102の評価を得ており、南関東の3歳3冠路線は一定の評価をされたと判断できる。
それだけに気になったのが、ダービーGPを制したフレッチャビアンカの評価だ。東京ダービー3着のティーズダンクに4馬身差をつけただけに、ランク入りが期待されたが、結局名前は載らず。その後古馬重賞で勝てなかったことが印象を悪くしたかもしれないが、南関東勢が勝てなかったダービーGP王者は、今年も100の壁を越えられなかった。
また南関東3歳牝馬3冠路線で準3冠となったアクアリーブルが、関東オークス2着で100の評価を得た。アローワンスを考えると、実質的に地方馬で世代最高評価を得たのはこの馬ということになる。
最後にエーデルワイス賞を制したソロユニットに、101の評価が与えられたことを触れておきたい。2歳牝馬限定である同競走を優勝した地方馬で、過去に100以上の評価を得たのは北海道2歳優駿も制したタイニーダンサーだけ。歴史的にも特筆すべき評価といえよう。
(参考)勝ち馬が100以上の評価を得た地方重賞一覧
今年から各馬がどの競走でレーティングされたかが明示されたため、統一グレード以外の地方重賞で、勝ち馬が100以上の評価を得た競走の一覧化に取り組むことにした。地方重賞でランキングされた馬の評価および、統一GⅠ競走の前に公表されるプレレーティングに加え、統一グレードなどで高いレーティングを手にした馬が勝った競走を、理論上考えられる最高値を※印で示す形で追加した。また★印の競走はプレレーティングの数値で、後に上方修正された可能性があることを意味している。
★3歳
東京ダービー(I)−103(エメリミット)
羽田盃(M)−102(ゴールドホイヤー)
★古馬
ゴールドC(M)−107※(ブルドッグボス)
東京記念(L)−103(サウンドトゥルー)
報知オールスターカップ(I)−102(オールブラッシュ)
ブリリアントカップ(M)−102(ストライクイーグル)
マイルグランプリ(M)−102(ミューチャリー)
金盃(大井)(L)−102※(サウンドトゥルー)
習志野きらっとスプリント(S)−101(ノブワイルド)
サンタアニタトロフィー(M)−101(ワークアンドラブ)
勝島王冠(M)−101★(カジノフォンテン)
川崎マイラーズ(M)−100(グレンツェント)
大井記念(I)−100※(ストライクイーグル)
(注)カッコ内は距離区分で、以下のとおりである
S−スプリント(1000~1300m)
M−マイル(1301~1899m)
I−インターミディエイト(1900~2100m)
L−ロング(2101~2700m)
