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コラム 苦難の時代だった平成期の地方競馬 後編・廃止ドミノを止める“もしも”はあったのか

・変革に乗り出していた政治

これに対し、政治は手をこまねいていた訳ではなかった。2001年4月に颯爽と就任した小泉純一郎内閣総理大臣(以降、小泉氏)は、中津競馬廃止問題を受けて早速『地方競馬のあり方に関する研究会』を立ち上げる。そして小泉氏が主導的に取り組んだ特殊法人をはじめとする行財政改革に向け、翌2002(平成14)年に『我が国の競馬のあり方に係る有識者懇談会』(以降、懇談会。また研究会を含めて「有識者会議」)も設置。競馬界の改革に向けた姿勢を示している。

ここでの議論を受けて、発売業務を民間等に受委託できるようにする競馬法の改正(2005(平成17)年1月施行)などにつなげ、一定の成果はあった。ただしこれによって大規模な変革が行われたかといえば、結論は否だろう。それを語る前に、行財政改革に向けた小泉氏が使った言葉を紹介したい。そしてこれは、今回のコラムにおける大事なキーワードでもある。

・誰も救えなかった有識者会議

「地方で出来ることは地方でやる。民間でできることは民間で」

ここからは報道や識者の発言などに依る推測を含むが、小泉氏が首相に就任後、政府とJRAの関係は極度の緊張状態になったそうだ。またJRAは第一次小泉内閣で農林水産大臣を務めた武部勤氏の更迭をも要求していたという。これが事実なら、監督官庁のトップを下部組織が挿げ替えようとしていたことになる。しかもJRAの理事長職は、農林水産大臣の指名人事であるにもかかわらずだ。

つまり小泉氏の方針を受けて、JRAは地位を冒される危機感を抱いたはずだ。それもあって有識者会議の席上で、JRAは自らが変革の対象となることを拒否する姿勢を明確しただけでなく、暴論とも言える仮説まで披露して地方競馬全体の攻撃を繰り広げた。挙句の果てに社長が懇談会メンバーだった民間企業とコラボ企画を実施することで、懇談会の中立性まで崩したのである。

結局、懇談会の報告書に於いて、JRAの地位に触れることはなかった。その証拠に公営競技関連の特殊法人は(公益)財団法人や地方共同法人に組織変更されたものの、JRAは今も特殊法人としての地位を維持し、その存在は“聖域化”された。そして個々の地方競馬主催者には、経営改善に向けた一定の支援策があったものの、前面に打ち出されたのは自助努力による自立。単に突き放されただけに終わり、有識者会議は誰も救えなかったと評するのは言い過ぎだろうか。

・もしも、小泉内閣が

これを受けて存続を続ける主催者の多くは、存廃論議に明け暮れ、健全経営に向けて歩き出した。しかしその多くは賞典費の抑制に向けられ、発展に向けたエネルギーはなかなか生まれなかった。売上の減少にも歯止めがかからず、2012(平成24)年度の売得金額は、ピーク時の約3分の1となる3326億円まで落ち込んだ。その結果、2011(平成23)年12月に荒尾競馬が、2013(平成25)年3月には福山競馬が廃止に追い込まれ、新たな廃止を食い止めることはできなかったのである。

話は戻るが、中津競馬の廃止を決断した鈴木氏には、JRAに抗えないことに対する無力感があったのではないか。地域経済に例えれば、大型店の出店やネット(無店舗)販売の拡大によって、地域に密着した商店街がシャッター通りに姿を変えたようなもの。そんな無力感が生まれる公営競技全体の構図は、廃止ドミノが起こった2000年代初頭から、実は何一つ変わっていないのだ

だからこそ思うことがある。小泉内閣があと1年、いやあと半年早く誕生していたら・・・と。中津競馬の廃止という激震が起こる前に、競馬界のあり方や特殊法人改革の議論が始まっていれば、その結論は今と変わっていた可能性は十分あったと思う。そしてそれが、主催者や現場がJRAに抗えるような希望を持てる海図であったなら、廃止せずに済んだ主催者は数多くあったとも考えている。

“小泉劇場”とまで呼ばれ、退任まで高い支持率を誇った小泉内閣も、経済・雇用政策については後に富の集中や経済格差の固定化へ向かったように、当時の政策に否定的な歴史的評価も出始めている。それと同じように、公営競技に関する特殊法人改革について否定的な歴史的評価が始まるとすれば、その理由は聖域を作ったことになるだろう。その時に軌道修正の材料として、このコラムが活かされることを願いつつ、締めさせていただくことにする。



by hirota-nobuki | 2019-04-30 12:30 | Comments(0)

地方競馬・ダート競馬の発展を願ってやまない博田伸樹(ヒロタ・ノブキ)です。この場を通じて地方競馬・ダート競馬により興味を持つ人が1人でも増えてほしいと願っています。 twitter:@HirotaNobuki


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