コラム 苦難の時代だった平成期の地方競馬 前編・景気と無責任がもたらした限界
2019年 04月 30日
・景気に連動する存在になっていた、平成時代の公営競技
平成に入った時の日本は、バブル景気の真っ只中。あらゆる業界で右肩上がりに成長し、これが永遠に続くものと誰しも思っていた。地方競馬を含む公営競技の売上も右肩上がりで、地方競馬は1991(平成3)年度に9862億円という、今も破られていない最高売得金額をマーク。賞金額も各地で上積みされ、1992(平成4)年東京ダービーと東京大賞典(当時は南関東ローカル)の1着賞金は、6800万円まで上昇している。
しかしバブルがはじけると景気は長い後退局面に入り、さらにJRAが公営競技の売上寡占化に向けた長年の経営努力が奏功したこともあり、それ以外の公営競技の売上は急降下を始めた。地方競馬は1995(平成7)年のいわゆる“交流元年”以降、世間の注目度は上がったものの、それも売上拡大にはつながらなかった。そして2000(平成12)年度には“冬の時代”とされた1985(昭和60)年度以来となる、5000億円台まで落ち込むことになった。
この推移から見えてくるのは、公営競技が“景気に連動する”存在だったことである。“不況に強い”と言われた昭和の時代は、景気が良くない時でもファンが集まるとされ、実際にそうだった時期や地域もあっただろう。ただし平成の世では、財布に余裕がなければ楽しめない娯楽になっていた。そして打つ手がほとんど効果を発揮しなかった経済政策の道連れとなり、底が見えない状況に陥ってしまったのである。
・“無責任”を極めた、中津競馬廃止
そんな中、起こってほしくない事態が発生した。2001(平成13)年2月に突如明らかになった、中津競馬の廃止表明である。独断で決めたとされる鈴木一郎中津市長(当時。以降、鈴木氏)が唐突に開催権を返上すると、その直後に国外逃亡。帰国後は関係者に対する補償を一切行わないと表明(最終的に撤回)し、挙句の果てに約2ヶ月残っていた開催日程も不可解な理由で行わなかった姿勢には、今でも怒りが湧いてくる。そしてこれが、廃止ドミノを起こすためのメッセージにもなってしまった。
それは地方競馬を含む公営競技の主催者は、競技の発展にも関係者の未来にも責任を持つ必要はないこと。財政を潤すための一手段に過ぎず、それができなければ廃止すればいいというものだ。事実、その鈴木氏が5選を目指して出馬した2003(平成15)年11月の市長選(落選)では、中津競馬の廃止を最大の実績としてアピール。その“無責任”を極めた姿勢を正当化する選挙戦は、全ての公営競技関係者を傷つけたと考えている。
結局2005(平成17)年3月までの4年間で、中津を含め7つの地方競馬主催者が廃止に追い込まれた。中でも2003年11月に廃止された上山競馬は、この年に阿部実上山市長(当時)が「3億円を越す赤字で競馬事業の廃止を検討」と発言したのを発端に、廃止のために3億円の赤字を作るという経営方針に姿を変え、それを実現させた廃止劇。民間企業であれば絶対に許されない手法は、いわゆる“財政競馬”“財政のための公営競技”の限界を示していた。
★平成期の地方競馬売上高推移(会計年度(4月~翌年3月)基準)
1989(平成元)年 8,490(2,435)
1990(平成2)年 9,493(2,420)
1991(平成3)年 9,862(2,417) ←地方競馬歴代最高
1992(平成4)年 8,881(2,438)
1993(平成5)年 8,059(2,432)
1994(平成6)年 7,320(2,386)
1995(平成7)年 7,141(2,483)
1996(平成8)年 6,949(2,435)
1997(平成9)年 7,070(2,413)
1998(平成10)年 6,577(2,418)
1999(平成11)年 6,230(2,389)
2000(平成12)年 5,560(2,274)
2001(平成13)年 5,221(2,089)
2002(平成14)年 4,930(1,909)
2003(平成15)年 4,450(1,831)
2004(平成16)年 3,861(1,679)
2005(平成17)年 3,690(1,515)
2006(平成18)年 3,760(1,511)
2007(平成19)年 3,804(1,483)
2008(平成20)年 3,757(1,469)
2009(平成21)年 3,634(1,461)
2010(平成22)年 3,332(1,432)
2011(平成23)年 3,331(1,397)
2012(平成24)年 3,326(1,379) ←平成期最低
2013(平成25)年 3,553(1,272)
2014(平成26)年 3,879(1,294)
2015(平成27)年 4,310(1,288)
2016(平成28)年 4,870(1,290)
2017(平成29)年 5,525(1,290)
2018(平成30)年 6,033(1,278)
<凡例>売得金額の単位は億円(単位未満切り捨て)。カッコ内は開催日数
<注>平成期に廃止された主催者(年月は最終開催日基準)
2001年 3月 中津
2002年 1月 新潟県
2002年 8月 益田
2003年 3月 足利
2003年11月 上山
2004年12月 高崎
2005年 3月 宇都宮
2011年12月 荒尾
2013年 3月 福山
後編は、30分後を目処に掲載します。
