コラム 誤審判定−32年前にできなかったこと
2018年 11月 16日
・誤審を呼んだのは“騎手の頭の位置”?
その前に北海道2歳優駿の誤審判定について、なぜ起こったのかを簡単に触れておきたい。主催者の会見では「決勝審判が揃って取り違えた」ことを強調しており、その言葉にも疑いは持っていない。ではその原因はと考えた時、鼻先よりも目立つ“騎手の頭の位置”が、判定に先入観を与えた可能性を考えている。
今回の決勝写真でも、誤って1着と判定されたウィンターフェルの井上俊彦騎手の頭の位置が、本当は1着だったイグナシオドーロの阿部龍騎手の頭の位置より前にある。それが先入観を生み、誤審判定につながったと評するのは短絡的かもしれないが、写真判定時に先入観を排除する方策がないかは今後の検討課題かもしれない。いずれにしても決勝審判に当たるスタッフは、改めて身を引き締めて業務に当たってほしいものである。
・32年前の誤審判定を振り返る
ここから1986年5月31日のJRA阪神競馬場で発生した、誤審判定について振り返る。なお北海道2歳優駿の誤審判定が明らかになって以降、ツイッターでこの件についてつぶやいた内容に、一部誤りがあります。ここで紹介する内容が正しいものとなりますので、ご注意ください。
誤審が発生したのは11時15分発走の4レースで、1−3着馬の写真判定が行われた際に、2着と3着を取り違えて発表したものである。着差を見れば1−2着がアタマ差、2−3着がクビ差あったので、取り違えてしまう差ではない。しかし3頭が併せ馬(内から実際の入線順としての1−2−3位)だったことに加え、2着として発表された3位入線馬の半馬身差で入線した4着馬の頭が、3位入線馬のゼッケンを隠していた。こうなると勝負服と枠帽で識別するしかないのだが、当時の決勝写真は白黒。「勝負服が似ていた」という釈明もあったが、そこで全員が勘違いを犯し、誤審判定が生まれたのである。
ポイントはその後の対応である。まずは当日の主な動きをまとめておきたい。
11時15分 定刻通り発走
11時17分 レース終了
11時19分 2−3着を取り違えた着順が発表
11時21分 誤った着順のまま確定
11時22分 記者室より判定写真の掲示を要求
11時25分 記者室で誤審が判明
11時40分 場内モニターで2−3着の馬名を逆にした判定写真を公表
12時20分 開催委員長が記者に対し誤審を認める
14時40分 誤審があった旨をファンに公表。併せて当該組み合わせの馬券を持っている人に、払戻相当額を支払うと発表
20時20分 競馬場で抗議していたファンが退場
(スポーツニッポン関西版及びサンケイスポーツ関西版の記事を参考に作成)
ここで詳しく紹介したいのは、14時40分の対応だ。実はこの段階では「当該組み合わせの馬券を持っていない人には支払えない」という姿勢を示していた。これは捨てた人だけでなく、公表前に払い戻しを受けて、その馬券を手放してしまった人にも対応しないというもの。翌日になって購入履歴等が証明されれば、払い戻しを済ませていた人にも応じることになったが、捨てた人への対応が変わることはなかった。それはこの日、発売施設で横行した、ある“犯罪”が関係している。
・翌日公表によって守られた被害者
14時40分に誤審があった旨のアナウンスが行われて以降、各地の発売施設でごみ箱を漁ったり落ちている馬券を拾い集めようとしたりする人が後を絶たなかった。もちろんその多くは、捨てた馬券がまだあると思った現実の購入者による行動だったと思う。しかしその中には、悪意を持って行っていた人も間違いなくいたはずだ。
無論、その行為はれっきとした犯罪なのだが、現物を持って来た人を問いただすことはできない。つまり払い戻しされた中に、犯罪者に馬券が渡った可能性を否定できなかった。そのために廃棄してしまった人を救済しなかった・・・いや“できなかった”のである。
ここで今回の話に戻るが、誤審を認めたのが翌日になったことで“対応が遅い”という指摘が多かった。しかしわかった段階で発表していたなら、32年前と同じように馬券を廃棄した人を救済できなかった可能性が高かった。それが1日経ったことで、その間に廃棄された投票券は処分され、犯罪者の手に渡る可能性はゼロに近くなっている。それによって廃棄した人を救済できる環境が作られたと私は思っており、これで大きなトラブルなく対応を終えられれば、将来のモデルケースになるとも考えている。
・確定前なら、誤りは正すことが出来る
32年前の件で当時の記事を調べていた際、報知新聞関西版に紹介された過去のトラブルの1つに目が留まった。それはある地方競馬場で2着と3着を取り違えて発表してしまったが、確定前にそれに気付き、修正して確定させたことがあったという事例である。
これだってあってはならない事象だが、誤って発表しても確定前なら正しい着順に修正することはできる。さすがに確定前に写真判定の開示を関係者が要求できるような異議申し立て制度の導入はやりすぎだろうが、32年前に誤審判定があったレースの成績公報には、着順変更もなければ誤審した旨も触れられていない。このことからもわかるように、確定した後にそれを改めるルールがないことを、忘れてはいけないと思っている。
最後にもう1つ要望を記したい。馬券の時効はレース当日の原則60日後となっているが、今回の北海道2歳優駿に関しては(誤審判定の影響を受けたかどうかに関わらず)、正しい到達順位による払戻金相当額の支払いを開始する日の60日後としてほしい。これは情報が正確でなかったファンに追加情報を求めるなど、コミュニケーションを取る時間を作る意味もある。主催者は1人でも多く救われるために努力していただきたいし、関係するファンも正確な状況を伝える努力をお願いしたいと思う。
<追記>
今回の誤審判定に関し、2019年2月28日付で、正しい到達順位の通りに競走成績が改められました。これは禁止薬物検出などによる確定後失格に関する規定を用いて行われたものです。
