コラム ダート競馬における芝スタートを検証する
2015年 02月 19日
今週は統一GⅠ「フェブラリーステークス」が行われる。このレースの統一GⅠ化の際には不透明な動きがあり、いまだに理解できないが、それとは別に長年続いている議論として“芝スタートのダート競馬の是非”がある。この部分について、馬券検討にもつながる話を交えながら紹介していきたい。
・完全に排除すべき存在ではないが
芝スタートのダート競馬を否定する立場からの声には、純粋なダート戦ではないことに加え、芝からダートに変わる場所で馬が驚くなど、アクシデントを誘発することを指摘する声は多い。実際に悲しい事故も起こっているし、それを少しでも減らすために、特に初経験の馬は返し馬の時にその場所を何度も走らせ、危険ではないことを馬に教える風景は日常になっている。
その一方で、芝スタートのダート競馬を認めることで距離のバリエーションが増え、ダート競馬で戦う馬たちにより広い選択肢を与えている事実もある。例えば中山競馬場なら1200mをそれで否定してしまえば、実質的に1800mだけになってしまう(一応1000mはあるが、フルゲートが少ない)。そこまでして安全性を追求すべきかという疑問もある。
芝スタートではなく、かつ距離のバリエーションも求めるとすれば、内馬場方向にシュートを設ける形はある。このやり方は外側がダートコースとなっているアメリカで、一部の競馬場の芝コースで取り入れているが、日本ではダートコースの内側にある障害コースが今度は障壁となる。
それでも新潟県競馬(廃止)で使用していた新潟競馬場の1200m(JRA主催時とスタート位置が違う)のように、障害コースがなければ不可能ではない。個人的には同様のレイアウトで中京競馬場に2000mのシュートを作ってはと思うが、その場合でもコーナーが1つ増えるレイアウトを関係者やファンは受け入れるかどうか。それらを総合的に勘案した場合、芝スタートのダート競馬を全否定することは困難である。
・スタートの芝は、ダート競馬の「障害物」
では実際に出走する馬にとって、ダート競馬の芝部分はどういうものだろうか。一般論では、芝部分は加速しやすい場所と捉えられているだろうが、一方で芝スタートのダート戦でなければ力を出せない・・・と言う関係者の声は聞いたことがない。そもそもダートを求めて出てくる訳で、芝を走りたいと思うなら芝のレースに出ればいい話。そう考えると芝部分は、障害物と捉えるのがふさわしいのではないだろうか。
その視点に立てば、重賞競走などステイタスが高くなるにつれ、芝スタートのダート競馬には疑問符をつけなければいけない。要はレースのステイタスが上がる程、芝部分が障害物としての価値を高めるという皮肉な関係となるからで、それを極力排除するのは当然だろう。つまり現在、統一GⅠとして行われているフェブラリーSにおける芝部分は、障害物としての価値も最も高いと言えるのだ。
個人的に許容できるのは統一GⅢ程度までか。それ以上となれば弊害の方が強いと思われ、芝スタートのダート競馬の存在は認めても、どのレベルまで許容できるのか、ダート競馬の発展のためにしっかり議論をすべきと考えている。
・芝スタートは、実は内枠有利?
ここで少し見方を変えて、予想する視点で考えてみたい。これまで広く言われてきたのは、芝部分でスピードが付きやすいので、先行馬は芝を長く走れる外枠が有利というもの。だが芝部分を障害物と捉えれば、その部分を長く走る外枠の方が不利という考え方も成立するわけで、認識も変える必要がある。
その視点で気になる舞台として紹介したいのが、中山競馬場の1200mだ。このコースはダートに入るまでに、芝の外回り→1200mのみで使用する芝部分→芝の内回りと横切っていくが、かつてはそれぞれの地面レベルがまちまちで、いきおいデコボコな芝コースを走らされていた。特に内側がひどく、内枠の馬はそれによってバランスを崩しやすいことが、外枠有利の一因になっていた。
そこで10年以上前・・・もしかしたら20年位い経つが、このデコボコが無くなるように改修(整地)された。これにより走りやすくなった内枠の馬が力を出しやすくなり、その結果、内枠勢が先行争いを制するケースが目立って増え、外枠有利は大幅に改善されている。この話を通じても、芝スタートというだけで外枠有利とする考えに、疑問を投げかけるには十分ではないだろうか。
もっとも、近年の日本競馬は競走条件に関係なく、揉まれずに進める外枠が有利と言われている点は考慮する必要はある。それも踏まえた上で、芝スタートのダート戦に対する個人的な見解をまとめておきたい。
(1)逃げ・先行馬ほど芝スタートは影響が大きく、追い込み馬はさほど関係がない
(2)レースの格が高くなればなるほど(=ダート適正の高い馬は)、ダートコースに入ってから加速していくので、先にダートコースに入れる内枠がやや有利
・現状のままのフェブラリーステークスはいらない
最後に話を芝スタートのダート戦に戻したい。芝スタートのダート戦を一掃するには、日本の競馬の価値観から根本的に変え、レイアウトも外側をダートコースとするアメリカンスタイルに変えなければいけない。でもそこまでして、これまで築いてきた価値観を全否定するのが正しいとは思わない。考えうるベストでも、盛岡競馬場以外にもう1ヶ所、アメリカンスタイルの競馬場が造られることだと思うが、それすら夢物語だろう。
ならばダート競馬の芝スタートを“必要悪”として受け入れた上で、どのレベルまで受け入れるかを考えるのが現実的だ。当然、その矛先はフェブラリーSに向かうわけだが、少なくともハッキリ言えることは、現状のままのフェブラリーSは不要だという事実である。
その対策となる“新生フェブラリーS”のプランは、個人的にいくつか持っている。ただそれに伴うデメリットなどをきちんと整理しておく必要があるので、具体的なプランを明らかにするのは別の機会に譲りたい。いずれにしろこの議論から逃げている間は、ダート競馬の真の発展は望めないと思っている。
